BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 青い空を見上げて 11 ]
2010-06-01(Tue) 09:16:53
阿久津城


トイレから戻ったウツミにカバンを渡して、
俺達は、ほろ酔い気分を保ったまま、店を出た。
冷たい風が、熱くなった顔をひやりと撫でてくれる。
これが、かなり気持ちいい。
それはウツミも同じみたいで、
ひゅうっと吹く風に目を細めていた。

「‥俺たぶん酔ってるかも」
じっと宙を見つめる、ウツミの潤んだ瞳。

ウツミに色気がある。

そんな風に考えてから、顔をまともに見られない。
それでも顔を見ようとすると、今度は、鎖骨とか首筋とか、
顔以外のところに視線がいっては、どきどきしてくる。
たぶん、俺はアルコールのせいで頭がおかしくなっているんだ。

わざと夜空を見上げつつ、ウツミに聞いた。
「すぐそこに公園あるから、ちょっと休んでいくか?」
がっくん、と首を大きく縦に振るウツミ。

アルコールのせいで、オーバーリアクションになっている。
なかなか見られないウツミの姿に、笑いが漏れるのを堪えた。

3分くらい歩いて公園についた。
ブランコ、鉄棒、すべり台だけの、規模の小さい公園だ。
外灯があまり設置されていないのか薄暗い。

近くのベンチにカバンを置くと、ウツミが隣に腰をおろした。
「缶コーヒー買ってくるから」
「‥それなら俺は甘いの」

言われて思い出してみれば、コーラとか苺ミルクとか、
ウツミは甘いのばかり飲んでいる。
意外と甘党で、何となくだけどチョコパフェとか好きそうだ。
ウツミとチョコパフェ、これはこれでお似合いじゃないだろうか。
って、だから、そういうこと考えてるなって俺。

「判った。甘いのな」
ウツミを残して、公園脇にある自販機で、
甘いコーヒーと無糖のコーヒーを買う。

コーヒーを持ってベンチに戻るとウツミが居なかった。
俺のカバンも無かった。
酔っぱらって草むらに寝てるのか、と思った時だ。

「‥こっち」
声のするほうを見ると、ウツミは、すべり台にいた。
踊り場の手すりに座っている。
すべり台の階段を上がって、ウツミと向かい合うように座った。

「ほら、甘いコーヒー買ってきた」
「‥うん」
コーヒーに口をつけるウツミを見て、俺もプルトップを開ける。

「これ飲んだら帰ろうな」
飲みながら言うと、突然、ウツミは体を丸めて震え始めた。
顔が青白く見え、冷や汗らしきものが頬を流れている。

ここにきて酔いが回ってきたのか、それとも吐きそうなのか。
どちらにしろ、俺は慌ててウツミの肩を掴んだ。
「おい、ウツミ?どうした?」

びくっと震えたウツミは、持っていた缶コーヒーを落とした。
踊り場を、空になっていた缶がころころと転がっていく。

「‥何でも‥な‥い‥」
俯いたままのウツミを覗くと、溢れんばかりの涙が、
目にいっぱい溜まっていた。

何でもないわけが無い。
それなら、どうして恐怖でいっぱいな表情をしている。
ウツミを怯えさせている何かがある。
俺はそれに怒りを覚えながらも、ウツミの腕をそっと握った。

「落ち着け。な?」
「‥うん」
小さく頷いた、ウツミ。
でも、震えはまだ止まらない。

公園の外灯が、震える子羊を暗闇に隠そうと、
わざと暗くしているようにさえ感じる。
照明係は、どこにいるんだ。
さっさと明るく照らしやがれ。
ウツミがこのまま闇に溶けたらどうするんだ。

「‥ごめん、大丈夫‥だから‥」
ウツミが少し顔を上げていた。
その口から、つつっと真っ赤な血が流れてきた。
どうやら、きつく唇を噛み締めて、そこから出血したらしい。

たまにウツミは、悔しそうに唇をぎゅっと噛んでいる時がある。
それは前から知っていた。
だからって、血が出るほど噛み締めるのは、異常な事態だ。

ポケットのハンカチで、ウツミの血を拭った。
だけど、固まった血もあって、キレイに拭き取れない。

「本当に大丈夫か?」
「‥うん。ジョーがいるから‥ちょっと落ち着いてきた‥」

どきり、と胸が鼓動を打つ。

瞬間、ウツミを襲う全てから、ウツミを守りたいと思った。

ウツミのこと好きになってた。

この思いにそんなに驚きはなかった。
アリゾナでそういうカップルを目の当たりにしていたからだろう。
好きになるのに性別は関係ないと考えさせられたっけ。

俺は、ウツミの顎についた血を、ぺろりと舐めた。
固まってしまって拭き取れなかったとこだ。

血がキレイに取れたのを見てから、ウツミにキスをした。

錆びたすべり台で、2つの影が1つに重なる。

好きなら触れたい、人間の本能。
それが暴走したのは、アルコールのせいにしたい。

ウツミは、でかく目を開けていた。
驚いているんだと思う。
俺も、俺のしていることに驚いていた。

そっと顔を離すとウツミが真っ赤になっていた。
「‥なっ‥何でこんな事っ‥」
「そんな気分だった。でも、これでもう震えが止まっただろ」

ウツミほどじゃないけど、俺も少しだけ顔が赤いはずだ。
さっきは、外灯の暗さに文句を言ったが、
今はありがとうと言いたい。
この暗さのお陰で、ちょっと離れさえすれば、
照れている顔をウツミに見られなくて済むからな。

女遊びだってキスだって何度もしてきたのに、
こんなに照れたのは初めてだった。

「‥これって気分ですることかよ‥」
ウツミの呟きが聞こえる。

キスをしたのは気分じゃなくて、ウツミが好きだから。

なんて、言えれば楽なのに言えない。

そりゃあ、男をこうして好きになったのは初めてだけど、
でもこんなに俺がウブなはずはない、と顎をぽりぽりと掻く。

そう言えば、ウツミが震え始めたのは、
帰ろうというキーワードを言ったからじゃないか。
ウツミに、帰りたくない何かがある。

「そんなに家に帰りたくないなら、うちに泊まるか?」
試しに俺は、こんなことを持ちかけてみた。

キスした男の家に泊まるか、帰りたくない何かを抑えられるか、
ウツミは、どっちを選択するだろう。
本音は、ぜひうちに泊まりにきて欲しいけど、
もしそうなったら我慢できなくて俺襲っちゃうかもしれない。

泊まってほしい、でも、帰ってほしい。
俺の心は、ぐらぐらと揺れていた。
って、そもそも片思いなんだから、襲ったら罪になるっての。

「‥じゃあ、これで賭けよう。これがごみ箱に入るかどうか」
落とした缶を拾って、ウツミは、ごみ箱を指した。
ごみ箱すらはっきり見えないほど、公園はかなり薄暗かった。
これだとたぶん勘で投げることになる。

「それなら、入ったら泊まる、外したら帰るな」
「‥判った」

ウツミは、腕を振って缶を投げた。
狙いをつけないで投げたらしく、大きなカーブを描いて、
ごみ箱の上を通り過ぎた。

その瞬間だった。

ひゅうっ。 

突然の横風に、空っぽの缶が押し戻されて、ホールインワン。
うるさい音を鳴らしながら、ごみ箱の中で缶が弾むと、
ウツミはどこか安心した表情になった。

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