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  [ 青い空を見上げて 12 ]
2010-06-02(Wed) 10:55:04
笹崎侑津弥


公園から駅に少し戻った場所に、ジョーの家はあった。
三階建ての一軒家が、とてつもなく豪華でびっくりした。
玄関脇に車2台、国産車と外車が並んで停まっている。
その隣には、バイクと自転車もあった。
車とバイクの価値は判らないけど、金持ちなのは理解できる。

「ウツミ、こっち」
ジョーが鍵を開けて家に入った。
呼ばれて玄関に入ると、室内がぱぱっと明るくなるのと同時に、
フォーンという謎めいた音がどこからか聞こえてきた。
それがエアコンだと気付くまで時間がかかった。

「ほら、上がれよ」
と、ジョーが出してくれたスリッパを履いて、
ぱたぱたと音をたてながら後をついていく。
スマートに静かに歩きたい。
でも、スリッパ履き慣れてなくて、ぱたぱたってなる。

ジョーの背中を見ていたら小刻みに震えていた。
絶対、ぱたぱたって音に笑っているんだ。
俺だってこんな音、出したくて出してんじゃないのに。

キレイに掃除されている廊下は、
気を抜いていると足を滑らせそうだ。
廊下の絵画や、モダンな台座に乗る花瓶とかに、埃も塵も無い。
こういうの全部ジョーが掃除しているのだろうか。
エプロンと三角巾をしてはたきを持ったジョーを想像したら、
ちょっとおかしかった。

「こっちこっち」
言われた扉に入ると、洗面所と脱衣所が兼用になった部屋だった。
奥の曇りガラスの扉が開いていて、
掃除の行き渡った風呂が目に入った。
大きくて広いのが、ここから見ても判るくらいだ。

ジョーは、扉脇にあるパネルを操作しながら、
「使い方は、見れば判るよな。替えのシャツとか持ってくるから、
 シャワー浴びて酔いを覚ましてこいよ」
と言うとすぐに去ってしまった。

俺は、ぽつんと置き去りにされた。

洗面の鏡を覗いて自分の顔を見ると、頬はうっすら赤く、
両目はかなり充血していた。
体がふわふわ浮いている感じもまだしている。
俺は、酔うとこんな姿になるのか‥と鏡をじっと見つめた。

「‥ふう」
アルコール臭い溜め息に驚きながら、ぱぱっと服を脱ぎ捨てて、
温かい風呂に入った。
あれ、湯船に湯なんかないのに室内が温かい。

さっき、ジョーがパネルを何だか触っていたっけ。
あれで温かくなっているに違いない。
まるで高級ホテルの設備みたいだ。
って、そんなところ行ったことないけど。

カランとシャワーのコックを、シャワーに捻った。
丁度いい温水が、ヘッドから勢いよく出てくる。
それを頭から浴びて、アルコール臭を取るように体を洗った。

もうもうと漂う湯気を追っていると、かちゃと扉の開く音がした。
曇りガラス越しに見えるのは、ジョーのシルエット。
ただ、ぼんやりと見えるだけで、何しているかまでは見えない。

「着替え、ここに置くからな。どうだ?少しは酔いが覚めたか?」
どうやらシャツとか持ってきてくれたらしい。

「‥うん」
「カゼひかないように、ゆっくり温まれよ」
「‥うん。ジョーは風呂入らないのか?」

ジョーは少し黙ってから、
「一緒にって意味か?って、そんなわけないよな」
と、肩を竦めるジェスチャーを俺に見せるようにやった。

もちろん一緒にって意味じゃない。
俺の後に、と付けなくて悪かったと思うけど、
普通に考えたらそれくらい判るようなもんだろ。
ジョーだったら、それくらい察せるはずだし。

「さっき俺にされたこと忘れるな。ちっとは警戒しとけよ」
このジョーの言葉をきっかけに、ジョーのアップと、
柔らかくて湿っていた唇が、フラッシュバックしてきた。

かあっと顔が熱くなる。
それを消そうと、ぶんぶんと首を横に振りまくった。

「‥いや、そうじゃなくて、あの‥俺の後に‥風呂‥」
台詞をきちんと訂正する余裕もなくなった。

「じゃあな」
くくくっと笑いながら去っていくジョー。
慌てていた俺は、またもや置き去りにされた。

ジョーの余裕にはいつも腹立つ。
年上だからなのか性格のせいなのか、
いずれにしても、いつかはジョーを慌てさせてみたいもんだ。

と思いながら頭では、キスのリプレイが始まっていた。

そうだ、ついさっき俺はキスされた。
したい気分だった、とジョーは言っていた。

本当は、俺のことが好きなのか?

だったら、俺がここにいるのは危ないんじゃないのか?

いつだっけ、酔うとキス魔になる人がいるって、何かで聞いた。
もしかしたらキスは酔った勢いだったのかもしれない。
それに、ここで慌てたらジョーにまた笑われそうだ。

ジョーとのキスはノーカウント、だよな。
俺もジョーも男だし、ジョーがキス魔だっただけだし、
カウントしなくても良いような気がする。

こういうのを考えることがもう嫌になってきて、
俺は、滝に打たれる修行僧のようにシャワーを浴び続けた。

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