BLUE BIND
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これは皆様もご存知のはず。
実は私、献血大好きなのです。
いつも400取ってもらってます。
体力的・時間的に余裕のある方々、
ぜひご協力をお願い致します。
日本赤十字社
寄付や献血を、行ったり訴えることが、
キレイ事に見えても構いません。
必要としている人がいるのは確かです。
実質的な行動はなくとも、
こういうのがあるということを、
知ってもらえるだけでも嬉しいです。
お読み頂きありがとうございました。
[ 青い空を見上げて 13 ]
2010-06-02(Wed) 17:17:17
笹崎侑津弥
腕とか体の匂いを嗅ぐ。
アルコール臭がなくなったのを確かめながら、
シャツと短パンを着た。
脱衣所を後にしたけど俺はどこに行けばいいんだ。
玄関からまっすぐ脱衣所にきたから、
どこに向かったらいいのかが判らない。
きょろきょろと廊下を見回していると、ジョーの声がした。
「ウツミ、こっちこっち」
声のするほうに行くと、突き当たりの部屋の扉が開いている。
そこはリビングダイニングだった。
リビングにはガラステーブルにソファ、
何インチか判らない、でかいとしか言えないテレビがある。
高そうな食器も飾られていて、割らないように避けた。
ダイニングには4人用食卓テーブルとイスがあって、
奥にはこれもまた広すぎるキッチンがあった。
ジョーは、そのキッチンにいた。
「ほら、これ」
ジョーから手渡された、ココアのカップ。
甘い香りにじんわりと心が痺れた。
「それ飲んだら、友達の家に泊まるって電話で親に言っておけよ。
風呂入ってくるから適当にくつろいでて」
「‥うん」
ジョーがいなくなってから、改めてリビングダイニングを見ると、
扉近くにファックスのついた電話があった。
電話、できない。
心と体が、油のきれた機械みたいに軋んでくる。
胸を撫でてゆっくりと落ち着こうとした。
泊まるなんて言ったら怒られるに決まってる。
泊まっても泊まらなくても、家に帰ればキレた親が殴ってくる。
どっちの結末も想像できる。
ぷつり。
何かが切れて、ふわりと頭が真っ白になった。
虚ろな目が、カウンター越しのキッチンを捉える。
足がそこへ進んでいく。
シンク下の棚を開けると、包丁のセットが丁寧にしまってある。
俺はふと左腕を見つめた。
消えないであろう傷があちこちに残っている。
傷の痛みだけが俺を癒してくれる。
痛いほどの軋みが、やんわりと和らいでくる。
こんなのだめだって判っているんだ。
でも、そうせずにはいられない。
こうして心が痛いままだと、何をするか自分でも判らない。
それはもう理屈じゃない。
包丁のキレイに光っている刃先を、そっと腕に押し付けた。
刃が皮をゆっくり突き破ろうとした、その瞬間だった。
「やめろ!ウツミ何やってんだ!」
と、突然掴まれた右手首。
タオルを頭に載せたジョーが、すぐ隣にいた。
ジョーに見られた。
だけど別に構わない。
むしろ、どうでもいい。
「‥見れば判るだろ」
そう言うと、ジョーは頬をひくっと動かした。
怒りを溜めた目が、ゆっくりと左腕に移動していく。
傷を見て、ジョーの目がすっと細くなった。
「これもウツミが自分でやったのか?」
「‥そうだよ。悪い?」
俺の手から強引に包丁を取り上げて、
ジョーはシンクへ放り投げつけた。
がっしゃーん!
轟音がした直後、いきなり俺の腕がジョーに引っ張られて、
そのまま何も言わないで歩き出される。
無言で歩く背中が、したたかに怒っているのが判った。
到着したのは風呂だった。
ジョーがすごい力で俺の体を投げやがった。
そのせいで、洗い場のシャワーヘッドの下に倒れた。
打った腰を擦って、俺はジョーを睨んだ。
「‥いっつ‥何すんだよ」
俺を見下す目が、きりっと吊り上っている。
ジョーの手がコックに伸びると、
俺はシャワーの湯をシャツを着たままで浴びらされた。
立つこともシャワーを止めることも、何だか面倒に思えて、
俺はそのまま倒れていた。
「ちょっとは頭冷えたかよ」
怒っていたジョーの目がいきなり哀れむような目になった。
それに腹が立って、かっと頭に血が上った。
「‥そんな目で見るな!あいつらと同じ目をするな!」
母親が、俺を叩き終わった後と同じ目。
父親が、俺を避けて何も言わない時の目。
中学の部活の顧問が、俺に失望した瞬間の目。
部活の連中が、影でくすくす笑っている目。
どこにも、俺の存在が無い。
そんなの生きてるって言わない。
俺なんて産まれなければ良かったんだ。
あいつらの目にじっとりと見られているようで、
俺は丸まって頭を抱えた。
歯がガチガチ言うくらい震えてくる。
もう、いい。
みんなも俺も何もかも、どうでもいい。
「‥もういいから放っておいてくれ」
滝のような涙がたくさん溢れると、いきなり胸が苦しくなった。
激しい呼吸が止まらず、どくどくと脈が暴れている。
シャツを握り締めながら、ぎゅっと目を閉じ落ち着こうとした。
いや待てよ、このままでいれば楽になれるかもしれない。
そうだ、それなら落ち着くことはない、このままでいればいい。
と思った時、がしっと肩を掴まれた。
「そんなこと言うな!」
そっと目を開けると、シャワーに濡れてまで、
ジョーが俺を抱き締めていた。
心を覆っていた硬い氷が、
じんわりと溶けていくような感じがした。
呼吸が、楽になったのを確かめてから、
俺がここにいると認めてくれている、大切な存在に、
俺はみっともないほどしがみ付いた。
「放っておけって言われても放っておかないからな!」
「‥どうして?」
「バカ!どうしてもだ!」
俺という存在を肯定してくれる声で、
虚ろだった目に、すうっと力が戻ってきた。
ぼやけて見えるジョーの顔が、悲しそうに笑っている。
俺が何もかも我慢すれば誰も悲しまない、
ずっとそう思っていた。
でも、そんなつもりなくても、ジョーを悲しませた。
「‥ごめんジョー、俺は‥俺は‥っ」
ジョーに謝りたいのに、喉が詰まって声を出せなかった。
「判ってるからもう泣くな」
頬の涙を、ジョーの指が拭ってくれる。
その手が暖かくて、ずっと触ってほしいと願うほどだった。
「これからも絶対放っておかないから」
頬に触れているジョーの手を握って、こくりと俺は頷いた。
ジョーも頷いてくれた。
そして、俺達は、安心したような笑顔になった。
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