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  [ 青い空を見上げて 1 ]
2010-04-17(Sat) 15:10:41
阿久津城


雲ひとつ無い、透き通ったような青い空。
ゆるやかに吹く風がびゅうっと音を立てると、
ざわざわと木が騒ぎだした。
同時に、ピンク色の雪がひらひらと舞い降りてくる。
ふと立ち止まり、幻想的だと感じながらそれを眺めていると、
思わず出した手に、5枚の桜びらが落ちてきた。
そのまま手をポケットに入れて、再びゆっくりと歩く。

ここは、和賀塚高等学校への専用通学路。
両脇の花壇に、桜がたくさん植えられていることから、
桜通りというありきたりな名称がついている。
植えられて何年にもなる桜は、
どれも幹が太くて、すっげ立派だった。

行事用にムリヤリ購入させられた制服のブレザーと、
ネクタイが、風に吹かれてふわりと浮き上がる。

ちなみに和賀高は私服がメインだ。
ただ行事用にと、なぜか制服一式を強制購入させられる。
紺色の上下に、学年で色分けという設定の地味なネクタイは、
実にシンプルな作りだ。

風で乱れまくる髪を押さえながら、ゆっくり歩いていると、
少しずつ和賀高が見えてくる。
同時に、マイクからの声も聞こえてきた。
体育館での入学式が、どうやらまだ終わっていないらしい。

俺、今年も高1だ。

本来だったらちゃんと入学式に出席するべきだろうけど、
かったるいし面倒くさくてわざと遅刻しているわけだ。

このスピードで進んでいったとしても、
学校に着いてもまだ入学式は続いていそうだ。
せめてマイクの声が聞こえなくなるまで、
どこか人の来ないところに身を潜めていよう。

桜通りを横切り、正門を避けて裏門に回ると、
鍵が閉められている低い門を、ひょいっと乗り越えた。
いつもここの扉が開いているのは、大体の生徒は承知済み。
セキュリティが甘い気がするけど、
それは学校の問題であり俺自身に関係はない。

ローファーを手に靴下で廊下に上がりこんだ。
誰もいない校内は静寂に包まれている。
静寂を壊さぬように俺はそろそろと歩いていく。

西側の端にある階段を上がって、ささっと屋上の入口へいった。
入口には立入禁止の看板があり、
時代遅れのごつい南京錠がかけられている。

いつの時代のモンだよ、
とこれを見るたびにツッコミを入れてしまう、俺。

もうこの鍵は壊れている。
外見は頑丈で、蹴っても殴っても、ビクともしなさそうだが、
本体にU字バーが入っているだけで実はロックされていない。

ここへ初めてきた時、
U字バーを引っ張ったらたまたま鍵が外れてしまった。
古さと錆びで、ほとんどが壊れてたんじゃないかと思う。
で、壊れたモンは直せないから、このまま放置というわけだ。
それに、ここは南京錠で封鎖されている、
というアピールになって誰も寄りつかないのがいい。

鍵を外して扉を押すと、
スポットライトのような眩い光が俺を包む。
日の明るさに目を細めながら、置いたローファーを履き、
扉脇にある錆びたハシゴを上っていって、貯水槽を目指す。

貯水槽のある場所こそが、俺のお気に入り。

ここから学校の全設備や街全体が見渡せるのだ。
第一体育館に第二体育館、屋上にある屋根付き温水プール、
学校内の設備と、そこから少し遠くに見えるのは、俺の住む町。

ひゅうっと、風が音をたてて強く吹く。
清々しいいい天気で、最高の気分だ。
その風に乗って、マイクからの声がまた聞こえてきた。

「‥はあ。やれやれ」
呟きながらの溜め息がひとつ。

まあいいや、俺はここで寝ていよう、
と、コンクリートに横になった時だった。

かちゃり。

出入口扉の開閉音に、びくっと体が震えた。

入学式で新入生は体育館、教師達もそっちに出席中、
しかも2年生と3年生は登校日ではない。
それに、南京錠が壊れているのを知ってるのは、
今のところ俺だけのはずだ。

息をひそめた俺は、屋上に入ってきた人物を見た。
制服が新品で、エンブレムに小さなリボンが飾られている。
明らかに新入生の男だった。

ふわふわの前髪が目元まであって、
日差しの眩しさにも表情すら変えない、
何とも無表情というか無愛想っぽい男である。

人のことは言えないけど、新入生のくせに入学式さぼりかよ、
と思わず苦笑いが漏れた。

そいつは真っ直ぐ進んでいき、手すりに右手を置いて、
空を仰ぎ見る。
静止した後姿を、俺はしばらく見つめていた。

瞬間、ぎょっとした。

そいつが青空を見上げながら、泣いているのが見えたからだ。
頬を伝い、風に乗るように大粒の涙が飛んでいく。

泣いている理由を気にしながらも、
横顔がキレイだと見とれていた自分がそこにいた。

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