BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 青い空を見上げて 20 ]
2010-06-07(Mon) 19:26:09
笹崎侑津弥


観覧車を降りると夕日は沈んでいて、
俺達は電飾で飾られたテーマパークを後にした。
「いいじゃん、うちにまた泊まっちゃえよ」
とジョーに誘われた。

さすがにもう親は何も言ってこないだろう、
と良い方向に考え、俺はまたジョーの家にいくことにした。
ちょっと前までは考えられない、大胆な行動力。
俺にもポジティブなとこがあるんだと少しびっくりした。

「スーパー寄って帰ろうぜ。
 ウツミに何か作りたいけど、朝ごはんで食材が切れてさ」
「‥うん。何を作る予定?」
「中華。麻婆に餃子に、杏仁豆腐に、まあ適当にな」

ジョーはコックを目指してるんだろうか。
スーパーで食料調達していたら、素をほとんど買わない。

食べるのが楽しみで、わくわくした。
楽しみだけど食べるだけじゃなくて、ちょっとは手伝わないと。

レジを済ませ、買ったものを袋に詰めている時、
ジョーが警戒するように周囲をぐるりと見回していた。

しかし、この買い物の量は多いぞ。
ビニール袋4つ分もあって、かなりの重さもある。
ジョーは険しい顔をしながら、1つを俺に託して、
3つを軽々と右手で持ち、左手で、いきなり俺の手を握ってきた。

「‥ど‥どうした?」
かあっと顔を赤くすると、ジョーは叫ぶように言った。

「走れ!」
「‥え?何?うわ!」

ジョーはいきなり俺を引っ張ってダッシュした。
込み合うスーパーで人と肩がぶつかり、
謝る間もなく俺達は走り去った。

たまに振り返りながら、らしくない全力疾走をするジョーは、
しばらく走り続けていた。
だけど、やっぱりスタミナが持たなかったみたいだ。
商店街の中央辺りで、肩で息をしながらジョーは立ち止まった。

どうして走ったのか聞こうとした。
けど、ジョーの息が激しくて、これだと答えられない。

重いスーパーの袋をバトンタッチする。
ジョーの背中をさすると、服がびっしょり濡れていた。
まだ肌寒い季節なのに、風邪を引かないか心配だ。

ジョーが少し落ち着いてきて、俺は聞いた。
「‥ジョー、どうした?誰かいたのか?」
「何でもない。気にするな。いきなり走って悪かったな」
「‥気にするなって言われても‥」

その時だった。

「おい!あそこだ!いたぞ!」
かなり遠いところから聞こえてきた。

声がした方向を見ようとしたら、
「見るな!ウツミ、こっち!」
と、ジョーに引っ張られて再び走った。

ジョーが誰かに追われている、という現状は把握した。
もしかしたら、ジョーとケンカした人物と関係あるかもしれない。
でも、この状況だと、それを確認することも困難そうだ。

走った末、昨日のゲームセンターに到着した。
撒くように店内をぐるぐると走った挙句、
トイレ掃除の用具入れに、ぎゅうぎゅう詰めになって入った。
ジョーが中から鍵をする。

ちょっと狭くて体がくっついた。

「ごめん、こんな場所だけどちょっと休憩」
「‥うん」

スーパーで買ってきた水のペットボトルを開けて、
ジョーに手渡すと、喉を鳴らして美味そうに飲み続けた。
俺はそんなに疲れてないけど、水を少し含む。

静かなトイレ内に、
店内をばたばたと走り回る雑音がはっきりと耳に入る。

汗がひいて呼吸も整ったジョーに、状況の原因と、
これからの行動について、きちんと聞こうとした。
「‥ジョー、これってどういう‥」

ばたん!

俺の質問を遮り、壊れんばかりの勢いで、トイレの扉が開いた。
同時に、ジョーが俺の口を塞いできた。

「どうだ?いたか?」
「いない。さっき2人だったよな?」
「ああ」

2人の男の声。
トイレを開けた人物はこっちが2人なのに対して、
使われている個室が1つもない、ということを怪しんでいる。

突然、用具入れの扉がどんと叩かれた。
びっくりして声が出そうになった。
中からジョーが鍵をかけたし、たぶんスルーされるだろう。
むしろ、スルーしてほしい。

「ここ、乗り上がって中を見てみるか?」
「そうしようぜ」

鍵くらいで安心するなんて俺はバカだ。

不安になった瞬間、誰かがトイレに走ってくるや否や、
「おい!裏口から出ていった野郎がいる!そっち追うぞ!」
と叫び、トイレ前の2人が去っていった。
誰なのかは知らないけど、裏口を出ていった人に感謝だ。

トイレが静かになり、ジョーが溜め息をつく。
「しばらく、ここにいていい?」

まだジョーに口を塞がれていたから、こくりと頷いた。
体をくっつけたままじっと動かないでいる、俺達。
ジョーの胸が早く動いている。
汗ばんだ匂いが、ちょっと心地よかった。

でも、ジョーは、たぶんまだ不安なんだろう。
どう声をかけていいか判らず、ジョーの背中をぽんぽんする。
ジョーが肩を震わせた。

「くくく。俺をガキ扱いすんなよ」
どうやら笑っているみたいで、口を塞いでいる手が緩んだ。

「‥そんなんじゃない。ちょっとは落ち着くかなって」
「そうか。ありがとうな」

ジョーが俺の肩に顎を乗せてくる。
何となくその仕草が可愛いと思ってしまい、
またジョーの背中をぽんぽんした。

すると、ジョーが首に吸い付いてきた。
びっくりして、思わず引いた。

「‥うわ!」
「しーっ!」

ジョーは俺の唇に指を当てて、声を出すなと目で訴えながら、
また首を吸った。

「‥んっ」
ぴくっと体を震わせると、ジョーが俺の股間を擦ってきた。
俺は、とうとう我慢できなかった。
もう誰もいないだろうと踏んで、ばたんと扉を開けた。

「‥こんな時に、こんな所で、何してんだよお前はっ」
「そんなに怒るなよ」
「‥こっちだって好きで怒ってるんじゃないっ」
「あはは。怒った顔もいいな」

その発言はノロケなのか本気なのか。
俺は憎めないジョーに溜め息しかなかった。

ジョーは、俺をなだめようと慌ててフォローしている。
慌てるジョーはレアな気がして、
俺はもうちょっと怒ったふりをした。
だけど、ゲームセンターを出てすぐにジョーを許した。

ジョーの家に一緒に戻ると、玄関先に、男性の靴と女性の靴が、
きちんと並んで置いてあった。
今朝はこんなの玄関にはなかった。

「‥誰?」

まさか、ジョーが俺の親を呼んだのか?

俺はにやりとするジョーを見つめた。

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