BLUE BIND

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  [ 青い空を見上げて 19 ]
2010-06-07(Mon) 10:24:05
笹崎侑津弥


学校を休んだ俺達は、ちょっと遠出をして、
最新のジェットコースターが完成したというテーマパークにきた。
テーマパークは何年振りどころか、
最後にきたのはいつだったかの記憶すらない。
ジョーは、ジェットコースターを連続3回乗ったらやつれた。
俺は、コースターの部類は平気なんだけど、
ホラー系がだめで、ジョーに掴まって歩いた。
ジョーは俺を守るように、がっちり肩を抱えてくれた。

腰だの尻だのも、触られた気もするけど‥。

時々、ジョーの携帯がメールを受信していた。
眉間に皺を寄せ、睨むように画面を見るジョーに、
「悪いんだけどソフトクリーム買ってきてくれないか?」
と、頼まれて買いにいった。

「俺とウツミの分、これで足りるだろ」
お金を渡すと休憩用のイスに腰を下ろして、
ジョーは何人かにメールを返信している。

怒ってるというよりは不思議そうな顔をしているジョー。
何だかちょっと気になるけど、
俺はアイスを食べながら、メールが終わるのを待った。

周りを見れば、カップルや女友達同士ばかりだ。
男2人でここにきているのは俺達くらいかもしれないな。
と、ぼーっと乗り物を眺めていると、
ジョーが隣に立っていて、俺のアイスを食った。

「のんびり食ってるとアイス溶けるぞ」
「‥メールもういいの?」
「もう終わった。待たせて悪かったな。
 去年、同じクラスだった奴らからのメールでさ、
 今日どうした?体調悪いのか?って。
 何だかよく判らんけど、大丈夫って返信した」

別にそこまで言わなくてもいいのに、
と思いつつ教えてくれたということに対して嬉しくなりながら、
残りのアイスを食べきった。

ジョーは包み隠さないで俺に話してくれる。

それに対して俺はどうか。

そろそろ向き合わないといけない。

「ウツミ、ラストにあれ乗ろうぜ」
気が付けばもう日が暮れてきて、俺達は大きな観覧車に向かう。
観覧車は、待ち時間も無く、すぐに乗れた。
ゴンドラの扉を係員に閉められると、ジョーが俺の隣に座った。

「‥あっちに座らないと傾くだろ」
「平気平気。ほら、すっげ夕日キレイだ」

眩しいほどの夕日が照らしてくる。
目を細め、小さくなる地上を眺めていると、ジョーが右を指した。

「あの辺が家だな、たぶん」
「‥うん」
「そうなると、学校は、こっちかな」
指を、すすっと僅か左に動かすと、ジョーは楽しそうに続けた。
居酒屋はこの辺、学校の駅はこの辺、結城の家はこの辺、
よく使うスーパーはこの辺、とあちこち指差している。

「で、好きなのはこの辺」
と、ジョーは俺の唇に指を当ててキスをした。

「‥ちょ‥こんなとこで‥っ」
「へへへ、ウツミが隙だらけなんだよ」

笑った顔に俺は思った。

この人には、全てを打ち明けようと。

「‥ジョー、聞いてくれる?」
「うん?何?」
「‥俺のこと全て」

観覧車はもう頂上だった。

「うん、いいよ」
「‥中学で陸上やってたって言ったの覚えてる?」
「ああ」
「‥長距離が好きだった俺は一年生で、レギュラー入りした。
 で、俺だけ全国大会に出たんだ」
「へえ、やるじゃん」

ジョーの手が俺の腰に回った。
俺は、ジョーではなく外を見ながら話を続けた。

「‥それが面白くなかった先輩が、いやがらせをしてきた。
 すごく古典的なやつで、シューズに画鋲入れたりとか、
 ロッカーのものを捨てたりとか」
「タチ悪いな」
「‥俺もそう思った。だから先生と顧問に色々と相談もした。
 そうされた証拠があっても、誰も何も、しようとはしなかった。
 悪いのはお前だって、それの一点張りだった」

だから退部した。
退部したら今度は、弱小チームに逆戻りした。
それに激怒した先輩も、友達も、いやがらせを続けてきた。

両親は、相談するような存在ではなかった。
いつからか忘れたけど、自分のストレス解消のためだけに、
何かしら俺のミスを見つけては、暴力を振るう両親だ。

姉と妹は俺と違い、とても大切にされている。
昼代と塾代は、いつも姉経由での手渡しだった。

お陰で、体に痛みを与えると、心の痛みが和らぐことを、
身をもって知った。

ジョーに額の傷を見せた。
「‥母親が投げてきた花瓶が当たったんだ、これ。
 父親が木刀でつけた傷跡は背中にある」

四方八方、俺には全てが塞がれた。
両親も教師も、友達も、何もかもが敵だった。

遠い高校に入り、ようやく中学の同級生と疎遠になれた。
けど、まだ両親の問題がある。
高校入学をやめて寮にでも入って働きたいと直談判もした。
言えば言うほど、あちこちに傷が増えるだけだった。

入学してからはあとどれだけ我慢すればいいんだろう、
と考える毎日だったと告げた。

「入学式の日の屋上で、だから泣いたのか」
真剣な声でジョーが聞いてきた。
ジョーが屋上にいたことに、そんなに驚かなかった。
むしろ、あれを見られて恥ずかしいと思った。

「‥見てたんだ」
「そりゃあ屋上は俺の領土だからな。
 でも、あれがきっかけで、俺はウツミのこと気になった」
人生、どこで何があるか判らないもんだ。

ジョーが俺の顔をことんと肩に乗せる。
俺はゴンドラの天井を見つめながら、ジョーにお礼を言った。

「‥ありがとう、ジョー。聞いてくれて少しすっきりした」

観覧車は、あとちょっとで到着しそうだった。

「こっちこそ話してくれて、ありがとう。
 なあ、観覧車でもう一周しない?」
「‥うん」

俺達は係員に頼み込み、
誰も待ってないから特別だと乗り続けさせてもらった。

前も後も、ゴンドラは空っぽだった。
俺はそれを確かめて、ジョーにキスした。

ジョーは、俺からされて驚いていたけど、
負けるかって勢いで俺にたくさんキスをした。

キスがこんなに気持ちいいものだと、改めて知った。

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