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  [ 青い空を見上げて 5 ]
2010-04-30(Fri) 15:36:06
阿久津城


入学式から一週間たった。
これまで3時限のみで、空腹のまま帰らされる毎日だった。
授業とはいえない時間にやっていたのは、
学校と校則の説明、部活の紹介、身体検査だ。
だけど、今日から授業が開始され、やっと昼休みが発生する。
よかった、すっげ安心した。
空腹で帰るというのは胃痛との戦いになるからな。

俺は、すっかりクラスの男と喋るようになっていた。
なんて言うものの、学食のどれが美味いとか、
売店のどんなパンが好評なのかとか、
そういった食い気の話がメインになっている。

あとは、どの学年のどの女子が、可愛いだの美人だの、
誰と誰はいつから付き合っているだのと、
恋愛にまつわる話題も、たまには話をするか。

こんなにクラスの男と喋っているものの、
笹崎とはほとんど会話がない。
いや、会話というものが成立しない。

「おはよう、笹崎」
「‥おはよ」
こっちから挨拶をしても、笹崎はこちらを見もしないで返事する。

「いい天気だな」
「‥うん」
「今日から授業だな」
「‥うん」
「教材、ちゃんと持ってきたか?」
「‥うん」
笹崎の素っ気ない相槌で話が続かない。

そうか、そうか、そんなに俺と喋りたくないか。
と思っても負けずに話しかける俺。

最近になってから気付いたことがある。
笹崎は、空を見ている時の目だけが、穏やかで優しい。
それ意外だと、態度も目元も、かなりきつくなる。

屋上で見た涙。

前髪の影の傷。

近寄るなという台詞。

生きてるんだから色々あると言えばあるだろうけど、
付け入る隙が無い、相変わらずミステリアスな野郎である。

授業初日は、各教科の教師の自己紹介と、
年間で教わる内容の話のみで、すぐに昼休みになった。
騒がしい教室を後にして、弁当とパンを片手に、
足取り軽くさっさと屋上へ向かった。

例の南京錠を外し、屋上のいつもの場所にいくと、
清々しい天気だった。

外がこんなにも気持ちいいのに教室で食うのはもったいない。
たいして美味くない弁当でも、
ここで食えばホテルのコース並みになる。
いやそれは言いすぎか。
でも、美味くなるのは間違いない。

弁当よりも先にパンを頬張った。
今ハマってるの俺のマイブームは、つぶあんとマーガリンのパンだ。
これ考えた人、マジで尊敬する。

「もぐもぐ、ごくん‥はあ‥」
幸せ逃げる溜め息を、今日だけで何度もしてる。

俺どうして笹崎のこと気になるんだろう。
あのミステリアスさに惹かれているだけなのか。
何にせよ笹崎のことを知りたい。
冷たいだけじゃない笹崎をもっと見つけてみたい。

だけど、話かけても会話は続かないし、
笹崎を見ているだけじゃ何一つ判らないままだ。
自分の問題もあるのに他人の心配なんておかしいか。

「あはは‥はあ‥」
溜め息ばかりの自分に腹が立ってきた。
気を取り直し、俺は弁当を開ける。
俺はこう見えても、料理が得意でこの弁当も手作りだ。

きんぴらを敷いたのり弁に、鶏のから揚げ、厚焼き玉子、
コロッケと白身のフライ、大好きな漬物と、
あまりにパーフェクトすぎるじゃないか、俺。

「俺はきっと素敵な奥さんになれるな」
ぽつりと呟いて虚しくなりつつ、
箸を銜え、持ってきた緑茶のペットボトルを開ける。

かちゃり。

扉の開く音に、ぎくっとした。
背中が震えた拍子に、銜えていた箸を落としかけた。

もしや、と思いながら覗いてみると、やはり笹崎だった。
ここなら誰もいないと思ったんだろう。
食おうとした弁当に蓋をしながら、ここから声をかけてみた。

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