2017-04-04(Tue) 15:34:10
「あ!いたいた!」
後ろから声がして、光さんの手を離した。 離された手で、ぽりぽりと頭を掻く光さん。 少しだけ気分が収まったようだ。 そこにやってきたのは、βチームで同じになる、 メカニックの牧田新太郎であった。 その牧田が、がばっと俺に飛びついてくる。 「聖さん!久し振り!」 「久し振り、牧田」 言いながら俺は、牧田を体から離した。 わなわなと震えている光さんがいるからだ。 「おい、聖。知り合いか?」 目は笑っているが声が震えている、光さん。 チーム分けに光さんが怒ってしまい、 ぎゅっと手を握ってやっと気が静まってきたのに、 ここでまた再沸騰してしまうとは。 機会があればとことん奉仕するしかなさそうだ。 「あ、はい。牧田は大学の後輩です」 「初めまして。牧田と言います。 後藤野さんにお目にかかれて光栄です」 牧田は光さんに深々と礼をした。 そんな礼儀正しさに、光さんの怒りが薄まった。 「どうも、後藤野です」 「わあ。本物はやっぱり格好いいですね。 いつもレース拝見しています。 別チームですけどよろしくお願いします」 「ああ、こちらこそよろしく」 本物はやっぱり格好いい、という牧田の台詞に、 光さんは満更でもない顔になった。 本当に、喜怒哀楽の激しい人である。 「お!いたいた!」 先程と似たような台詞が聞こえてきた。 そこにいたのは、βチームのドライバーと、 監督とオーナーの定番コンビだ。 俺と光さんは顔を上げた。 この場に奇妙な6人が揃った。 次話へ 前話へ お気に召しましたら一票お願いします。 |