2017-09-26(Tue) 15:47:39
光さんはイライラした分を、
ベッドで解放しなかった。 俺も、きっと光さんも、 デラックスルームの柔らかいベッドで、 たくさん絡むだろうと思っていた。 「怒りに任せて、セックスしたくない。 どうせならもっと落ち着いてやりたいだろ。 だから、今日はとことん飲んでやるぞ」 という宣言をされ、光さんは言った通りに、 ワインをとことん飲んだのだった。 俺はそれに頷きながら、ワインに付き合った。 光さんの気持ちは判っている。 セックスとは愛情の確認でもあるのだ。 それを怒りに任せて行ったら、 勢いだけで終わってしまう。 じっくり絡み合いたいのが、俺達の本音。 そして、ようやく本戦にむけて始動する。 まずはβチームのメカニックの、 名前に顔に特徴、得意分野に不得意分野、 メカニックとしての腕前とスピードを調査した。 ほぼ同時に、ロイのテクニックや、 スピードの出し方、ブレーキの踏み方、 ハンドリングの特徴や癖を観察をする。 光さんとは異なるそれらを、 メカニックチームでカバーしていくからだ。 もちろん、カバーにも限界はあるが。 特にロイは大変だろうと思う。 本来は、GTレースのドライバーだった。 レースやサーキットには慣れているとしても、 GTとF3では、マシンが異なる。 これは大きなハンデだと言ってもいい。 そうなると、頼りになるのは慣れたスピードや、 ロイの運動神経だろう。 もちろん、そこら辺を考えられて、 ロイがドライバーに選ばれた訳だけれども。 「大丈夫だよ」 ロイは甘いコーヒーを飲み、笑って答えた。 今はランチの後である。 俺はロイを誘って、コーヒーショップにきた。 ロイは、すらりとした体形からは想像つかないが、 甘いコーヒーが好きらしい。 太らなくて羨ましいと思ってしまう。 「とくかく、やってみるしかないから。 それにレーサーとして、GTもF3も乗れるなんて、 こんなに恵まれたことはないよ」 「ポジティブなんですね、ロイさんは」 関心し、頷いてからブラックコーヒーを啜ると、 ロイは人差し指を左右に振った。 ちっちっちっ、と言いたげな口をしながら。 「さん付けも、敬語も、ノーサンキュー。 僕はそういうの嫌いだから、 フレンドリーに関わったり喋ったりしようよ」 外国での生活が長いとは聞いている。 こういうジェスチャーは外国では自然なのだろうか。 俺自身、今までに外国へ行ったことがなく、 そういうのが判っていない。 それとは別にして、フレンドリーで接していいのは、 俺にもみんなにもいいかもしれないと思った。 βチームのメカニックのメンバーは、 きっとまだ緊張しているだろうから、 これだけでもリラックスのきっかけになる。 「そうだね、ロイ。これから宜しく」 「こちらこそ宜しくね、セイ」 笑うとロイも笑ってくれた。 次話へ 前話へ お気に召しましたら一票お願いします。 |