2018-04-16(Mon) 13:44:05
コーヒーショップに行くと、
光さんはカウンター席でコーヒーを飲んでいた。 カウンターは窓側に設置されている。 光さんはカウンター席が、あまり好きじゃない。 それでも、光さんがここに座ったのはきっと、 俺がきたらすぐ判るようにだろう。 そうとしか考えられない。 熱くなった胸に、そっと手を当てる。 そこで、光さんと目が合った。 光さんはカップをソーサーに置くと、 それを返してショップを出た。 唇を固く閉じ、怒っているような顔をしているが、 俺がきてほっとしているようにも見える。 「お待たせしました」 「いや、こっちこそ悪かったな。 これから飲みに行かないか?」 「いいですね。行きたいです」 固かった唇が、ふわりと柔らかく解けて、 にこりと笑ってくれた。 不意にこうやって素直になられると、 光さんがやっぱり好きなのだと思わせられる。 光さんがタクシーを拾い、 近くにある繁華街へと向かった。 途中、牧田と別れた駅前を通ったが、 牧田の姿はもう見えなかった。 俺はタクシーの中で、光さんに謝った。 謝るくらいなら誤解されるような行いはするな、 とさらりと窘められた。 それ以上、光さんは何も言わなかった。 繁華街で降りた俺達は、 光さんのリクエストで中華店へ向かうことにした。 個室が多くあって人目に付きにくく、 それでいて料理も酒も美味しいところだ。 ここまでほとんど喋らなかった光さんが、 酒の力を借り、ようやく口を開いた。 「聖とチームが別れたのはしょうがない。 でも、やっぱり悔しい」 グラスを揺らしながら、悔しそうに笑っていた。 俺だってそう思っていた。 勝手に決められたけど従わないといけない。 それでも、やっぱり悔しいのだ。 1年間、ほとんど一緒に仕事できないのだから。 これまで一緒にやってきて恋人にもなった。 それなのに、いきなりの離れ離れはきつい。 「そうですね。俺もそう思います」 光さんを真似てグラスと揺らすと、 ぐいっと光さんが迫ってきた。 驚いた俺は、グラスを落としそうになる。 「おい、聖。マジでそう思ってんのか?」 「そりゃあ思いますよ。当たり前です」 そう言うと、光さんは大声で笑った。 「あはは。悔しいのは俺だけかと思ったよ」 次話へ 前話へ お気に召しましたら一票お願いします。 |