2019-02-15(Fri) 13:45:53
今日はβチームでのピット練習をした。
即席、という単語が似合うチームで、 ピットでの息を合わせないといけない。 俺は、ロリプップマン。 ピット作業のリーダー的存在であり、 これはチーフが担うことが多い。 メンバーの配置は監督と相談をした。 結果、牧田をジャッキホルダーに指名した。 ジャッキホルダーは前後に配置されることがあり、 牧田はあえて前方にした。 俺が言うのも何だが、牧田は器用だ。 そして、どんなことでもそつなくこなす。 人のタイミングに合わせるのも、抜群に上手く、 それでジャッキホルダーにした。 マシンがピットインしたら、 ジャッキホルダーが、マシンを持ち上げる。 マシンは軽いから、ひょいと上がるんだ。 そして、ホイールマンがタイヤ交換する。 ホイールマンは3人1組になっていて、 ホイールナットを脱着する担当、 古いタイヤを外すクルー、 新しいタイヤを入れるクルー、 1つのタイヤに3人が持っていかれる。 これを4タイヤに配置しなければならない。 その間、給油係も作業中だ。 給油リグを差し込むクルー、 給油ホースを支え持つクルー、 燃料が排気管に触れて発火を防ぐクルー、 予備の給油リグを準備するクルー、 給油停止の安全遮断弁を担当するクルー、 こちらは5人1組でやることになる。 エンジン停止に備えるスターター、 ウイングの調整等をするメカニック、 その他にも消火器を持つクルー、 ヘルメットのバイザーやミラーを拭くクルー、 これらのクルーも陰で控えている。 コンマ1秒でもタイムを短縮させるのに、 俺達はマシンの作業をスムーズする。 その練習を何度も何度もやる。 チームワークが勝敗を左右してしまうのだ。 レーサーの足を引っ張る訳にはいかない。 俺がロリポップを持ち、全体を見渡し、 細かく指示を出していく。 1つ直れば、1つまた問題が出てくる。 結局、少しずつだが直していくしかない、 ものすごく地味な作業なのだ。 休憩中、マシンの横で水を飲んでいると、 元気そうに牧田がやってきた。 ちょうど水を飲み終わったとこらしく、 空のペットボトルを振っている。 「みんな合わせるの難しいですね」 「そうだな。でもやっていかないとな」 「こういうとこがレースってより、、 スポーツだなって思い知らされますよ」 俺の隣に立ち、牧田が少し迫る。 「ねえ、聖さん」 いきなりの近距離に違和感はあったが、 あえて離れることもないと思いつつ、 でも少しは気にしながら、隣の牧田を見た。 牧田は、俺のことを見ていない。 「どうした?」 「ちょっと前のミーティングの後、 資料を取りに戻ったの本当ですか?」 どきっと脈が早まった。 しかし、牧田は、俺のことを見ていない。 気付かれないよう深呼吸をして、 顔も、声も、できるだけ普通にしてみせる。 「俺だって忘れる時くらいあるさ」 「ふとあの時に思い出したんです。 大学の水泳部の練習で、 濡れた水着を忘れたこと」 そんなことを言われて、振り絞って思い出す。 水泳の練習後、使用済みの水着を、 濡れたままロッカーに置いてってしまった。 大学を出る直前、慌てて取りに戻ると、 ロッカールームの牧田と先輩がキスしており、 こういう世界もあるのだと痛感したんだっけ。 俺の忘れ物の件で、その思い出が過り、 どうやら俺に言いたかったらしい。 牧田にもセンチメンタルな一面があるものだ。 「本当、変わらないですよね聖さん」 牧田の笑顔に、緊張が解けて笑顔を見せた。 ランキング参加中 次話へ 前話へ |