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  [ 雲の上の輪廻 1 ]
2010-09-05(Sun) 08:05:28
管制塔からやっと指示がきたのか、
僕達の乗る飛行機が、ようやく飛び立った。
僕は窓側の席で、クレウスが通路側にいる。
小さい窓から、日本の地をじっと眺めていると、
クレウスが僕の手を握ってきた。

「ミレトス名残惜しいのかい?」
にこりと笑いながら訊ねるクレウス。

「いや、違うよ」
「それじゃあ何を考えているの?」
「クレウス‥ごめんね‥」

突然の謝罪に、クレウスがきょとんとする。
青い瞳から目を逸らし、僕はもじもじと答えた。

「クレウスの話をちゃんと聞いていれば、
 日本で一緒に楽しく過ごせ‥んっ」
言い終わる前に、クレウスが僕の唇に指を立ててきた。
そして、ウインクをひとつ。

「いいよ、もうそれは終わったことさ。
 ただし2度目はないよ」
「うん」
「それから、帰国してからおしおきが必要かな」
「‥っ」

やっぱりあるんだ、と思って体中が熱くなった。

クレウスのおしおきは、愛情表現だ。
それは重々承知している。
だけど、深夜の誰もいない公園に行ってから、
陵辱、はちょっとオーバー表現かもしれないけど、
それに似たことをされるのは慣れない。

それでも、それを僕が受け入れるのは、
やっぱりクレウスが好きだからなんだろう。

「ところで、ジョーとキスしたかい?」
クレウスが話を変えてきた。

「してないよ。ジョーはもう僕達とはできないって」
「そうか。パートナーができたんだね」
「誰とまでは言わなかったけど、たぶん‥」
「ウツミ、だろう?」

ジョーに対するウツミの瞳で、すぐに判った。
露骨な嫉妬、それを隠すことができないほど幼いウツミ。
ジョーへの愛情がそれほど率直だという証拠でもある。

「クレウスは、ウツミとキスしたの?」
「できなかったよ。かわされてね」

ほっとして、ふうと肩の力を抜いた。
すると、それが判ったのかクレウスは笑った。

「安心したかい?」
「‥あ、うん」
「ミレトスは嫉妬してばかりだ」

クレウスは、成績が良く人望も厚い。
ただ、マジメでちょっと潔癖なところがあるせいか、
友達の人数が僕より少ない。

僕は、双子なのにクレウスとは真逆で、
成績も良くないし人望も薄っぺら。
マイペースで、だらだらと過ごすのが好きだけど、
なぜだか友達だけはいる。

それでも、クレウスを羨ましいと思っていた。
だけど、1人でいることの多いクレウスの背中を、
いつからか目で追うようになり、
そしていつの間にか好きになっていた。

「それくらい僕はクレウスのこと愛しているのさ」
「知ってる」
傾斜する飛行機に便乗して、クレウスが頬にキスをする。
僕は赤くなったクレウスの頬に同じことをした。

やがて飛行機は水平飛行になり、遅いランチが配られた。
それを平らげて、しばらく食休みしていると、
メインの明かりが落とされ、周囲がゆっくりと薄暗くなる。

薄暗い光景は、日本行きの飛行機での、僕の心と同じ。

1週間前、僕は全くクレウスと口を利かなかった。

クレウスが女の子と買い物にいったこと、
もちろん僕は知っていた。
彼氏へのプレゼント選びというのを口実に、
女の子が、クレウスとデートをしたかったらしいことも。

寝取るのが趣味、という噂が女の子にあって、
ちょっと有名な人物ではあった。
でも、クレウスと僕は愛し合っているし、確固たる信頼もあり、
僕はクレウスがショッピングへいっても気にしなかった。

しかし、事件は当日夜、静かに起こった。

クレウスとセックスした、
というメールが僕や友達に一斉に送られてきた。
もちろん、その女の子からだ。

だけど、メールだけの報告では信用できなかった。
クレウスは優秀で格好いいから、隠れファンが多いし、
それに、こんなデマは1度や2度じゃない。

と返したら携帯に画像が送られてきた。
裸でベッドに寝ているクレウスの姿だった。

どうやらはそれは合成写真だったらしいけど、
携帯の荒い写真で、そんなことに気付くはずもないまま、
クレウスとケンカして、そのまま日本留学にきた。

これが、留学前夜の出来事。

ジョーに逢えた嬉しさはあった。
だから気晴らしに、あちこち連れ回してもらった。
だけど、クレウスと口を利かずにいて、
それだけで拷問されているような気分でもあった。

留学最終日、ジョーの部屋を借りて誤解が解けて、
クレウスと繋がれた時はほっとしたし、心から幸せだった。
その代わり、おしおきが待ってるけど。

そんなことを思い出していたら瞼が重くなってきた。
「クレウス、僕ちょっと眠るね」
「ああ、おやすみ」

おやすみのキスを額に受けてすうっと眠りに入った。

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