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  [ その手はひとつじゃない 1 ]
2011-03-06(Sun) 06:40:47
「満さん、コーヒーどうぞ」
「ありがとうございます、舞斗君」
家のダイニングテーブルにコーヒーを置くと、
ソファに座っていた満さんがやってきた。
立ったままコーヒーを啜りながら、
楽しそうにダイニングを眺めている。

眺めてもらうほど楽しいものは置いていないけど、
母親がディスプレイした場所が、そのままにしてあった。
家族の色々な写真や、俺達が描いて贈った似顔絵、
そんなばかりが飾られてある。

ここだけは、昔からずっと変わらない。
と言うよりもどうしてか手をつけられない。

「キレイなお母さんですね」
「それよく言われます」
「母親似なんですね舞斗君は」
「それもよく言われます」
笑ながら答えると、満さんも笑った。

交際するようになって1週間。
俺は満さんを家に招いた。

理由は、それなりにいくつかあるけど、
俺と満さんが付き合っていると、
郁央にきちんと報告をしたいからだ。
もちろん、満さんには同意を得ている。

今は、バイトから戻る弟を待ちながら、
満さんとコーヒーを飲んでまったり過ごしていた。
同棲するようになったらこういう毎日なのかな、
なんて楽しいことを考えながら。

「もう一杯だけ、コーヒーもらえませんか?」
満さんが空のカップを見せる。

「いいですよ。待ってて下さいね」
空のカップを手にキッチンへ向かう。
サーバーに落としたコーヒーをそこへ注いで、
隣へきた満さんに渡した。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
カップを受け取って、俺にキスする満さん。
ブラックを飲んでいた唇は、ほろ苦い味がした。

「このコーヒー美味しいですね」
「初めは母親が好きで、豆をミルで挽いて淹れてました」

商店街にコーヒー専門店がある。
母親が亡くなってからは父親が飲むようになって、
それから俺と弟も偲ぶように、コーヒーを飲むようになった。
依頼さえあればそこの特製ブレンドやモカなんかを、
父に送ることがあるとも付け加える。

「私はてっきり舞斗君が淹れてくれたから、
 こんなにも美味しいのかと」
「それで美味くなるなら苦労しませんよ」

俺は照れてしまい顔を赤くした。
それを見つからないようにコーヒーを啜ると、
またキスされてしまった。

ここでたくさんキスされたら、
キッチンに立つ度にキスのことを思い出してしまう。
俺の頭は、それくらい満さんでいっぱいらしい。

「今度このショップまで案内してもらえませんか?」
「いいですよ」
「パスタにも合いそうだし、
 オルテンシアでこれを提供することができれば‥」

満さんは何やら、ぶつぶつ言い始めた。
ほんのちょっとだけ、仕事モードに突入したらしい。

俺といる満さんは、優しくて笑っていて癒される。
時々、妙にエロくなって襲ってもくるけど、
そういう満さんも好きだし、ギャップにも惹かれる。

だけど、真剣な表情は、なかなかお目見えになれない。
今のこの顔は、かなりレアとも言えるだろう。
それをじっと眺めていると満さんがはっとした。

「あ、すみません。ちょっと考え事していました」
「これをオルテンシアに出したいって考えてたんですよね?」
「ど‥どうして判ったんですか?」
「俺にだってそれくらい判りますよ」

考えていることを呟いていましたよ、なんて言わない。
満さんのことなら何でも判っているんですから、
とでも言いたげな顔をすると、満さんは参ったように笑った。

すると、玄関のドアの開閉音がした。
弟がようやく帰ってきた。

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