BLUE BIND

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  [ 僕達の体育祭 7(完) ]
2010-06-26(Sat) 08:32:17
笹崎侑津弥


体育祭から3日後。
かったるい体を奮い立たせて、
俺はジョーと学校へ向かっていた。
ケガからの出血があって大人しくしていたジョー。
血も傷はかなり落ち着いたけど、あまり動かないで過ごした。

だから、料理も家事も、ジョーに教えてもらいながら、
できる範囲で俺が担当した。
家のことやるのってなかなか楽しかった。

今歩いている場所は、通学路の桜通り。
すっかり花が散った木を見ていると、
もうすぐ中間テストだなと恐怖にかられる。
そんなことを考えていると、ぽんっと肩を叩かれた。

「ウッチ、阿久津、おはよーさん」
声の主は、にこにこ笑顔の仁志だった。

「おっす」
「‥そんな変なあだ名やめろ」
「そんでさ、ウッチ、いきなりなんだけど‥」

仁志は、こっちの話を聞いちゃいない。
もうこのあだ名は諦めるしかないのか、と思った時だった。

「サッカー部入らない?」

突然の台詞に、ジョーと俺は目が点になった。
そんな俺達を放置したまま、仁志は、嬉しそうに語りだした。

「ウッチのスピードで、ボール運びしたらまさに敵なしだ。
 そしたらさ、うちのサッカー部もっと強くなるしさ、
 なあ、ウッチ、サッカーやろうぜ」

仁志は語っている自分に酔っているのか、
サッカー部の栄光を夢見て酔っているのか、
どちらにしても、かなり酔いながら話していた。

驚いて言葉も出ない。
むしろ、ひくっと顔が引きつった。

俺は、何か言おうとしていたジョーの腕を取って、
すたすたと仁志を素通りしてやった。
関わると面倒だと思っての、無言の拒否だ。

すると、門の前にたくさんの人が立っていた。
大勢の人々は、こっちを見るや否やどっと迫ってきて、
俺とジョーを囲んだ。

「キミが笹崎君だね。その足を生かし、ぜひ野球部へ!」
「いやいや、キミはバスケ部にこそピッタリだ」
「そんなのより柔道部なんかはどうだい」
「水泳部はキミを大歓迎さ」
「ここはやはり演劇部なんかどうでしょうか?」

他にもフェンシング部だの、体操部だの、剣道部だの、
足速いのが関係するのかってな部活までが勧誘しにきた。

なんとなく、こうなる予感はしていた。
だからマジになって走りたくなかったけど、
ジョーが転倒したせいで不覚にもムキになった。
冷静を保てなかった俺のミスだ。

そんな予感の的中に頭痛がした。
しかも、大勢にもみくちゃにされて人酔いまでしてきた。
あまりの息苦しさに、肺の中の空気を吐き出す。

まだちょっと、人が怖い。

こうやって迫られるのが、特に怖い。

立ちくらみがして誰かにぶつかった。
見なくてもそれがジョーだと判ったのは、
俺を支えるようにして肩を持っていてくれたからだ。

そのジョーが代わりに断わってくれた。
「悪いけどウツミはどこにも入らないって」

俺がちゃんと断わればいいけど、
吐き気がしていて口を開けなかった。
情けないけど喋ろうものなら吐きそうだった。

「もちろん掛け持ちでいいんだ!」
そんな声がどこからか飛んできて、
拍車がかかってそうだそうだの合唱がされる。

立っていられないほどのプレッシャーを感じて、
俺はこめかみを押さえた。
さーっと血の気が引いていく。
もしかしたら顔が少し青ざめたかもしれない。

すると、いつの間にか周りが静かになった。

何が起きたんだろうと顔を上げると、
ジョーが凄んだ目をして、みんなを睨んでいた。
「ウツミは、どこにも入らないって言ってんだろ?」

顔は笑っている。

声も弾んでいる。

だけど目が怒っていた。

ジョーが放つオーラの強さに、みんなが黙り込んでいる。

そこへ、メガネをかけた人がジョーの前にやってきた。
「おはよう。朝からそんなに怒らないでよ、阿久津」
「おっす、三波」

三波と呼ばれた人物は、にこりと俺に笑いかけた。
その笑顔が吐きそうだった気分を穏やかにしてくれる。

「みんな必死なだけで悪気はないんだ。それだけは判ってよ」
「まあな。ただ、こういう勧誘の仕方はねえだろ」
「うん、僕もそう思うよ。笹崎君、大丈夫?」

三波さんは優しい口調で、
心配そうにこっちの様子をうかがってきた。
こめかみから手を下ろしながら、静かに応える。

「‥あ、はい。大丈夫‥です‥」
「みんなを許してあげて。さっきも言ったけど、
 自分のチームを強くしたくて必死なんだよ、どこもね」

もちろん、それは痛いほど判っている。
でも、ジョーも言ったけどこういうやり方はあんまりだ。

そんな俺の考えが顔に出たのか、
三波さんはバツが悪そうに苦笑いをした。

「そう言う僕もね、
 ここにいるみんなと一緒で勧誘しにきたんだけど、
 大切なのは笹崎君の意思だから、ここは潔く諦めるよ」

三波さんの一言で、みんなは肩をがっくり落とすと、
残念そうな表情をして退散していった。

ようやく開放されて、ほっとした。
途端に、安堵と疲労が、どっと俺を襲ってくる。
ジョーが、そんな俺の背中を撫でた。

「ウツミ、大丈夫か?」
「‥うん。ごめん」
「ウツミは何もしてないんだから謝るなよ」
「そうそう。悪いのはこっち側なんだからね」

三波さんはジョーを真似してか、
よしよしと呟きながら、俺の頭を優しく撫でた。
ちょっと迷惑そうに、ジョーがその手を静かにどける。

「ありがとな、三波」
「阿久津、あのままだと殴りそうだったからね」
「‥俺ってそう見えるわけ?」
「あはは。冗談だよ」
この2人、仲がいいのか悪いのかが判らない。

そこに仁志がきた。
幸せそうな笑顔を浮かべながら、三波さんに近寄っていくと、
「おはよーさんっす、三波先輩」
と、元気に挨拶した。

どこかで似た笑顔を見たことがある。

あ、そうだ、ジョーが俺を見る時の顔に似ている。

「おはよう、マキ。
 強力なボディーガードがいて勧誘はムリみたいだね」
「そうっすね。それなら、ウッチの分まで俺がやったりますよ」
自分の胸をどんっと叩く仁志。

仁志にはウッチってのが定着しつつあるらしい。
わざわざ訂正するのも疲れるだけだから放置しておこう。
俺がシカトしていればそのうち呼ばなくなるだろう。

「断言したからには頑張ってもらわないとね」
仁志の頭をぽんっと叩く三波さん。
すると、仁志はもっと嬉しそうな笑顔になった。

「じゃあ、そういうわけだから。
 騒がせて悪かったね、阿久津に笹崎君」
「別にいいから。気にしてないし」

ジョーが笑うと、三波さんは笑って頷いた。
そして、三波さんは、静かにそこから去っていった。
まるで飼い主を追い駆けるように、その後を仁志が追っていく。

「ウツミ、本当に大丈夫か?」
優しい笑顔を浮かべる、ジョー。
やっぱり、仁志のさっきの笑顔に、似ている気がした。

「‥あ‥うん。さっきは人酔いしたけどもう平気」
「だな。ウツミの慌てぶり‥ぷぷ‥かなり笑えた‥くくくっ」
「‥ひっで」
なんて言いつつ、俺もつられて笑う。

そうして、これからまた平穏な日々がはじまる。

と、少なくともこの時点ではそう思っていた。

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以前のホムペにも掲載していない、番外編です。
ネタはずっと書き溜めていたので、
いつかアップしたいなあと思っていました。
その念願が叶って嬉しいです(*^-^*)

本編ではいい所がないウツミに活躍を!と思い、
作ったのがこのお話です。
ウツミも活躍できたし、エロも書けたし、
私としてはもうお腹いっぱいです。
ごちそうさまでした(笑)
と言いたい所ですが、とても意味深な幕引きです。

どういうことか判りますよね(´∀`)
そういうわけです、はい(爆)

ここまでお読み頂きありがとうございました♪
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