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  [ 青い空を見上げて2nd 1 ]
2010-06-26(Sat) 20:10:43
笹崎侑津弥


7月上旬。
とっくに梅雨明けして、猛暑が続く毎日。
春の運動会に続き、忌々しい中間テストが終了した。
和賀高のテストのペースは変則的で、
7月と翌年1月に中間テスト、9月と翌年3月に期末テスト、
というスケジュールになっている。

学期の数えもちょっと変わっていて、
4月~9月を1学期、10月~3月を2学期で、
うちは2学期編成なのだ。
でも、夏休み、冬休み、春休みは、ちゃんとある。

「最悪だ」
そうぼやいたのは、ジョーだった。

席順が、テスト用から普段用へと戻って、
ようやくジョーと席が隣り合わせになった。
その最初の一言がこれ。

ぼやくけど、ジョーが頭いいのは知っている。
吉村さんとか三波さんから、こっそりと聞いていた。
わざわざコンタクトを取っているわけじゃなくて、
職員室で会った時とかに、聞いてもいないのに言ってきた。

「あいつは謙遜が下手くそだし、頭いいのに悪いふりをする。
 だから放っておいても構わない」
とのこと。

なるほど、今のジョーを見てそれが判った。

「だったら期末で挽回すれば?」
机に突っ伏し、はあっと溜め息をつくジョーに俺が言うと、
「ウツミ君冷たいわ」
と、ぞぞっと身の毛がよだつような、オネエ言葉の返事がきた。

ジョー君が案外優秀と知ってるわ、とでも返そうか。

うげっ、気色悪っ。

冷や汗が、たらりと俺の頬を伝っていく。
ジョーは俺の反応に笑いながら、帰りの支度を始めた。

テストは午前中にしかやらない。
もちろん昼休みはなく、終わったら腹減ったままで帰される。
教師は、生徒の居ない午後を使って、テストの採点をするから、
部活動はもちろん強制休部だ。

教室の時計は、11時45分。
胃がぐるぐると鳴っていた。
期間中、ずっとこんな感じでかなり辛い。
自宅通学じゃなくてよかったと心底思った。

「たまには、どっかで食べて帰ろうか」
胃が鳴りまくってる音が聞こえたのか、
ナイスタイミングな、ジョーの台詞。

「‥ジョーのおごり?」
カバンを背負うジョーに、とんとんと腰を叩いてみせる。

テスト前後はセックス禁止、と約束し、
俺達はテスト勉強をしていた。
でも、我慢できないと昨夜、ジョーが迫ってきた。
ちょっとなら、とジョーを許した俺がバカだった。

ジョーは溜まってましたと言わんばかりに、かなりした。
1回、2回、3回、それでも終わらなくて4回もだ。
もう最後には、絞りすぎて俺もジョーも出なかったほどに。

お陰で俺は腰が痛い。
テストじゃなかったら休みたいくらいだった。
それを、ジョーに見せつける。

「ま、いいけど」
ジョーは負けましたと言うように、静かに手を上げた。

「阿久津君、ちょっといい?」
そこに井出がきた。
さらさらの髪を揺らしながら、俺とジョーに笑いかける。

井出は、フェンシング部に入っていた。
小さい頃から、フェンシングを習っていたらしく、
1年生にしてかなり活躍しているらしい。
大型新人、そんな言葉がよく似合う、エース的存在みたいだ。

ジョーは笑いながら応えた。
「うん?何か用?」
「アリゾナの話をちょっと聞きたいんだけど、
 これからお昼一緒しながらでも、どうかな?」

井出が、ジョーの机にカバンを乗せる。
女子らしいハート模様のトートバッグだった。

どうしようかと聞いているような顔で、ジョーは俺を見てくる。
俺は、肩をすくめるしか無かった。

行けとも行くなとも言えない。
たぶん俺には、ジョーを制限する権限はないんだ。
だから、ジョーのしたいようにすればいい。

そのやりとりが見えたかのように、井出は、
ふふっと笑いながらこう言った。
「ウッチも行こうよ。それならいいでしょ?」

ウッチとは俺のあだ名だった。
仁志が最初に呼び始め、
シカトしていれば言わなくなると思いきや、
次々とクラスメイトが呼ぶようになって定着してしまった。
呂律の回らない苗字に比べたら、呼びやすい感じらしい。

俺はカバンを持って、にやりと笑いながら言った。
「‥ジョーがおごってくれるって」
「え?本当?いいの?やったあ、じゃあ何食べようかな」
井出は、嬉しそうに手を叩いている。

「マジ?それなら俺も行きたい!」
仁志が突然、がばっと身を乗り出した。

「残念。男におごってやる趣味は俺にありません」
ジョーが舌を見せると、サッカー部のカバンを持ちながら、
仁志は、ぶすっと膨れっ面になった。
「それじゃあ、ウッチは男じゃないのかよ」

「ウツミは特別なんだよ」
こっちを見るジョー。

トクベツ。

俺は、どうリアクションとればいいんだろう。

とりあえず平静のままでいると、
「ああ、はいはい。ごちそうさん」
と、笑いながら仁志は教室を去っていった。

仁志は、たぶん三波さんの教室へむかった。
最近、一緒に帰るところ何度も見ている。
何でかまでは知らないけど、仲がいいのは確かだ。

にやりと笑ったジョーは、廊下に出ながら井出に言った。
「奢るのはいいけど、グランドキャニオンくらいで、
 キャーなんて言わないでくれよ?」
「あはは。そんなことしないよ」
「しかしまあ、急にアリゾナの話したいなんて珍しいな」
「うん、ちょっとね」

井出の、澄んだ瞳が、ずっと遠くを見ていた。

その瞳には、期待と希望が、混ざっているような気がした。

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