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  [ 決めたゴールを走れ 1 ]
2012-02-07(Tue) 06:50:00
職場の店長に、なぜか呼ばれた。
呼ばれるようなことをした覚えはないんだけど。
車両の整備の不備か、それとも俺へのクレームか。
いずれにしろ、呼ばたからには行かないと。
タイミングよく車のメンテナンスは終わっていて、
あとはサービスで洗車するだけだった。
これは後輩に一言言って、やっておいてもらおう。

手袋を外して車庫を出た。
それでも爪の中にまで、車のオイルが染みている。
まあ、メカニックってのは、こんなもんか。

店内に入ると店長に声をかけられた。
店長の隣にいるのはここでは有名な人だ。
八剣智さんという人物であり、
会社経営し、しかもフォーミュラニッポンで、
オーナーとしてチーム参戦している。

足を組んでイスに浅く座っていた。
スーツが似合っている、かなり渋い人である。
こういう中年になれたら格好いいだろうな、
なんて思いながら眺めていると、
挨拶くらいしろと店長にせっつかれた。

「あ、前澤聖です」
「八剣です。仕事中、呼び出してしまって申し訳ない。
 お願いがあって参りました」
「お願い?」

縁のない人から、お願いされる覚えはない。
だけど、スルーできない状況であるはずもなく、
聞くだけならと伝えると、こう言われた。
「腕のいいメカニックだと聞きました。
 我がフォーミュラニッポンのチームへ、
 入ってもらえませんか」

とある事情により、
メカニックチーム全員辞めてしまったらしい。
そこで、新しいスタッフメンバーを探している、
とのことだった。

「あの、どうして俺なんですか?」
「僕の車のブレーキのセッティングが君と聞きました。
 硬くもなく柔らかくもない、
 あのフィット感を出す腕がほしいんです」

ブレーキ調節をしてほしいという高級車が、
自分に回ってきているのが脳裏に浮かぶ。
そうか、あの車がこの人のなのか。
あんまり気にしたことがないから知らなかった。

「どうだい?やってみないかい?」
「いや、あの、でもですね‥」
ここですぐに返事しろってか。
俺は困り、しどろもどろになった。

工業高校を出て、自動車大学を出て、
無事にこのディーラーへ就職した。
独身だけど30歳にもなる。
残念なことに仕事一筋すぎて彼女はいないけど、
俺にだってちょっとくらい考えさせてほしい。

答えを渋ると、あははと笑われた。
「これは失礼した。考える時間も与えず、
 返事をすぐにもらおうなんて図々しかったね」
「あ、いえ」
「それでは一週間あげましょう。収入や休日、
 仕事のスケジュールについての資料を、
 明日ここへ持ってきますので参考にして下さい」

それだけ言うと、八剣さんは起立し、
スマートに俺へ握手を求めてきた。
つられて手を差し伸べると、手をじっと見つめられた。

「オイルの染みたいい手をしている。
 いい返事をもらえるのを期待しています」
「あ、はい」

これが、俺がチームESに入ることになった、
きっかけとなった。

次話へ

決めたゴールを走れ、連載スタートです。
エロまでの道のりは遥か遠いですが(苦笑)
宜しければお付き合い下さいm(^▽^)m


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