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  [ 決めたゴールを走れ 72 ]
2012-05-04(Fri) 06:00:00
「チームESの前澤チーフですよね?」
「あ、はい。そうです」
「ピットでの行動に感動しました。
 宜しければ握手して頂けませんか?」
職業がメカニックで役職がチーフ、というだけで、
俺なんかサラリーマンと変わらない。
なのに、握手を求められるとは思わなかった。

ピットでのシーンは生中継されていたらしい。
楠先生も、目の前の人も、ピットでの俺の行動を見ていた。
見られていたという恥ずかしさもあったが、
恥ずかしさよりも嬉しさが勝ってしまったようで、
緊張しながらも笑顔になった。

「俺でよければ喜んでさせて貰います。
 ただ、ケガしているので優しくお願いします」
手を出すとその手を見つめられた。

包帯を巻かれたり軟膏を塗られたり、
ガーゼやテープも、あちこちに貼られてある、
オーバーに処置されてしまった両手。
そのせいか、握るというよりは触れるだけのような、
優しい握手を交わした。

「ありがとうございます」
「あ、いえ、こちらこそありがとうございます」
「これは名誉の負傷ですか?」
「あはは、まさにそうです」
「そうですか。だから、チームESは優勝したのですね」
「優勝できたのはドライバーの実力です。
 メカニックのはそれをフォローだけですから」

そう言うと、この人は笑った。
「あなたは強くて優しい人だ」

それは買い被りだろう。
だけど、言われて悪い気はしない。
笑って返すと、この人も笑った。
言葉のいらない会話だった。

その時、こちらに少年がやってきた。
小柄な男性で、たぶん20歳前後だろう。
大学生っぽい面影がある。

「満さん」
「どうしましたか、舞斗君?」

耳元でこそこそと内緒話をする。
この人が頷くと、舞斗と呼ばれた少年は去っていった。

「お連れの方、あっちに行きましたけど?」
「ええ。大丈夫です。
 そうだ、よかったらパスタを取っていって下さい。
 八剣オーナーの推奨なんですよ」
「オーナーをご存知なんですか?」
「オルテンシアという名前のパスタ専門店があるのですが、
 オーナーが八剣さんなんです。
 私はしがない雇われSVですが、今日はパスタの新作を、
 このパーティーに持ってきたんです」

パスタの店もやってるって噂があります。
オーナーは出資するだけで表立たないんですよ。
社長も取締も、人をわざわざ雇ってますから。

更衣室の佐原の言葉を、思い出す。
噂ではなくどうやらマジな話だったようだ。

こちらにどうぞ、と言われてついて行くと、
ビュッフェに並んでいるパスタのコーナーに着いた。
この人が中にいるシェフに手を上げると、
皿にとったパスタを渡してくれる。
新作パスタの説明をされて、続いて名刺も出された。

「申し遅れましたが楠と言います。
 オルテンシアはチェーン店展開しておりますので、
 ぜひ食べにいらして下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」
「仲良さそうに何話してんだよ?」

シャンパングラスを持った光さんがやってきた。
面白くなさそうな表情で、じっと俺と男性を見ている。
インタビューや取材は一通り終了したようだ。

「パスタの話をしてもらってたんですよ光さん」
「それにしては楽しそうじゃん」
「光、やきもちなんてみっともないよ」

楠さんが光さんを、さらりと呼び捨てにする。
俺の頭に、ハテナマークが浮かび上がってきた。
どういうことなんだろう、これは。

そんな俺の疑問に答えたのは、光さんだった。
「満兄は、いとこなんだよ。
 じいさんの息子の子供が満兄。娘の子供が俺」

今日1日で、光さんの親戚に会いまくりだ。
知ることができて嬉しいけれど、
情報の処理が嬉しさに追いつかず、はあと答えた。

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