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  [ 風のように遥かに 3 ]
2010-07-29(Thu) 06:10:15
ふと気付くと、誰もいない部室に立っていた。
どうやってここに来たのかすらも覚えていない。
部室は、部室棟と呼ばれる建物の中にある。
校舎と部室棟は、廊下一本で移動可能だ。
部活用の部屋に用具室、洗濯室に仮眠室に、
シャワー室もあり、素泊まりできるくらいの設備がある。

その1階に、サッカー部用の部室があった。
収容数80人用で、野球部と並んで広い部室だ。

目を閉じると思い出すのは、さっきのキスシーン。
これだけ周りが静かだと、色っぽかったウツミの声が、
頭の中でわんわんと響き渡る。

それを掻き消すように頭を振って、
制服からいつもの練習着にぱぱっと着替えた。
キスシーンをエンドレスリピートする、
壊れたステレオみたいなこの頭、ランニングで冷やそう。

その時だった。

「マキ、早いね」
ミナミ先輩が部室にやってきた。

2年生の三波時継、ミナミ先輩は腎臓に持病があって、
ドクターストップで運動をすることができない。
それならせめてマネージャーをやりたいと、
中学から現在まで、サッカー部の裏方を担っている。

俺、ミナミ先輩と同じ中学だったから、
そこら辺だったら誰よりも詳しいのだ。

「おはよーさんっす、ミナミ先輩。
 これから走り込みしてきます」
「今日もかなり暑いから無茶しないでね」
肩をぽんと叩かれて、俺の口元が緩む。

瞬間、なぜかキスシーンがフラッシュバックした。
どきっとした俺は先輩を見られなくなり、
さりげなく目を逸らしながら、さっと部室を退室する。
「はいっす。いってきます」

俺、ミナミ先輩のことが大好きだ。
好きって気持ちが漏れそうで、そんな俺が怖かった。

今までも普通に好きだった。
先輩として尊敬している、という意味だったし、
俺もずっとそうに違いないんだと思っていた。

でも、以前といい今回のといい、
同性とのキスシーンを目撃して、気持ちを自覚した。

同性相手に、好きって思っていいんだ、と。

さっきのフラッシュバックは、なぜか脳内変換がされて、
キスシーンが、俺とミナミ先輩に変わっていた。
妄想しまくる中学生じゃあるまいし、
いくらなんでも都合のいいように変換しすぎだろう。

それにしても、もうだめだ。
俺マジで危ない。
ミナミ先輩との2人きりに、何でだか耐えられん。

「うおおおおお!邪念退散!」
邪念を消すための大声を発しながら、トラックを爆走する。

トラック5周目終わったところで、
帰ろうとしているジョーとウツミに会ってしまった。
2人共、何事もなかったように平然としている。

「よう。ランニングに精が出るな」
ジョーは相変わらず余裕そうな笑顔だった。

2人のおかげで頭冷やしてます、とは言えず、
「まあな。走るの好きだし。
 お前らは何をしていて帰りが遅くなったんだ?」
と、キスシーンを見せてくれた礼のカウンターアタック。

「俺一応これでも美術部だからさ、
 マキほどじゃないけど夏休みに登校しないといけなくて、
 顧問にそれの確認をしてたんだ。なあ?」
「‥え?うん。俺はそれ待ってた」

嫌味すらも通じない2人。
それどころか予期せぬディレイときた。

「じゃあな。部活しっかり頑張れよ」
「‥またな」
手を振りながら歩き出すジョーと、にこりと隣で笑うウツミ。

俺は、敗北を感じながら言葉を返した。
「おう、またな」

2人の後姿は、たぶん理想そのものだ。
仲睦まじいのにちょうどいい距離がある。
俺も、ミナミ先輩とあんな後姿になりたい。

うおおおおお、だめだだめだ。
俺はサッカーに生きるんだ。
先輩に、俺がこんなんだと知られちゃったら、
きっと嫌われるに決まっている。

しかし、しつこい邪念は部活に没頭していても、
俺にまとわり続けたのだった。

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マキは熱い男なので、うおおおおお!とかよく言います(笑)
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