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  [ 風のように遥かに 4 ]
2010-07-31(Sat) 04:50:13
「ありがとうございました!」
夕方6時、この一言で全部活が終了する。
まだまだ外は明るくてしかも蒸し暑い。
それに、セミがやかましいほど鳴きまくっている。
それをBGMにしながら、グラウンド整備をしていた。

各部活の1年生が総出で、トンボを手にグラウンドを歩く。
年功序列の体育会系は、スタメンだろうが何であろうが、
こういう仕事は必ず1年生がやるのだ。
だから、練習のための体力はもちろん必要だけど、
余力をそれなりに確保しないといけない。

「マキ。ちょっといいか?」
タツ先輩が、グラウンド隅を歩いていた俺の傍にきた。

「はいっす」
「今日、サッカー以外のことに集中していただろ。
 何かあったのか?」

3年生の日樫辰哉、タツ先輩はMFだ。
攻守両面の、中継役を担う司令塔を成し、
そして、サッカー部のキャプテンを務めている。

「えと‥すみません‥」
「何かあったのかと聞いているんだ」

タツ先輩が硬い表情で、俺をじっと見る。
邪念退散、とばかりに張り切ってみたけど、
それがかえって空回りだったのか、
それともどこか集中していない表情だったのか。
先輩にそういうところを見抜かれていたらしい。

「大丈夫っす」
何かあったのかと聞かれて、クラスメイトのキスシーンで、
自分の恋心に気づきましたと言えるはずもない。

「その言葉信じるぞ。
 何かあったら俺にすぐ言ってこい。いいな」
「はいっす」

トンボを手に再び歩き出すと、
タツ先輩の隣にリュウ先輩が並んだ。
リュウ先輩はあんなんでも一応副キャプだから、
俺のことを相談しているに違いない。

邪念退散ってどうやるんですか、
とでも聞けば良かったか。

いや、そんな質問をしたら、
リュウ先輩に締められる未来が見えている。
先輩の持論は、難しいことは考えないで動いてしまえ、
だからな。

くそ、リュウ先輩とタツ先輩のツーショットまで、
なんだか眩しく見えてきた。
俺の目は、かなり重症らしい。

グラウンド整備がようやく完了した。
水道でうがいと手洗いし、シャワーを浴びにいくと、
他部活の一年生で、狭いシャワー室がごったがえしている。
急ぐような用事もなく順番を待っていると、
シャワーを浴びる頃には、ほとんど人が帰っていた。

部室にはミナミ先輩のみがいた。
先輩はロッカーに寄りかかって居眠りしている。
暑さのせいで疲れたのだろうか。

このまま先輩が寝続けてくれたら、
柔らかい口唇を確実に奪える。

俺は、先輩の顎を上向け、ゆっくり顔を近づけた。

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