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  [ 風のように遥かに 6 ]
2010-08-04(Wed) 05:55:39
うちの治療院は夜9時までやっている。
ほら、今だって入口が明るい。
「ただいま」
裏口にある玄関ではなく、
道路側にある治療院の、ガラスの扉を開けた。

すぐのところに受付のカウンターあり、
そこに姉が座って筆を滑らせている。
たぶん、カルテでも書いているんだろう。
夕食前後はいつも人が少ないから、
こういう時間はデスクワークが中心になる。

「おかえり。あれ?またあんた三波君担いできたの?
 そっか。そう言えば、最近、うちにきてなかったね」
「こんばんは。すみません」

過去に2度、中学時代に、
学校から先輩を担いでここに連れてきたことがあった。

タクシー使えばいいのにと言われたけど、
以前、タクシーに乗ってワンメーターだった時、
先輩はドライバーにケチつけられた経緯があるらしく、
それからはタクシーには乗りたくないそうだ。

それを知っている姉は、ふんぞり返って笑った。
「いいのよ謝らなくて。
 こいつは体力バカだから奴隷にしてやって」
「体力バカってなんだよ失礼な」

ぼやきつつ姉が指定したベッドに先輩を下ろすと、
マッサージ用のベッドで横になっていた兄が、
かかかっと笑った。
「お前が体力バカじゃなかったら誰が体力バカなんだよ」

兄は、小学生からずっと野球一筋だった。
しかし、ピッチャーとして肩を痛めてしまって、
野球選手を目指していたが高校時代に断念。
現在は、趣味程度として少年野球のコーチをしている。

「兄ちゃんには言われたくない。野球バカめ」
「何だと。サッカーバカめ」
「バカって言う奴がバカなんだよ」
「あ!今バカって言った!バーカバーカ!」

16歳と22歳の、幼児並日常的会話。
あまりの低レベルさに、ミナミ先輩と姉が苦笑いした。
ちなみに姉は元スイマーの、24歳の独身だ。

「永遠にやってなさい同類が。
 それじゃあ父さん呼んでくるわね」
「オヤジどこ?」
「ご飯よ。そろそろ戻ってくると思うけどね」

といったところで背後にオヤジがやってきた。
「呼んだか?」
しーはー言いながら、つまようじで歯を突いている。

俺よりも背が高くて、筋肉ムキムキの父親。
元ラガーマンで誰であろうとも逆らうことはできない。
母さんを除いては、だけど。

「ミナミ先輩がまた悪化したみたいなんだ」
ベッドに寝転がっている先輩を、俺達の後から見る父親。

「またか。ちゃんと通わないと治るものも治らないぞ」
「こんばんは。すみません」
先輩は、ぺこりと頭を下げた。

「このまま電気をやろう。それから針するか」
父親が姉に指示を出し、言う通りの準備を姉が始めた。
兄も、それを手伝っている。

「あの、その、実は僕‥」
「先輩、あいにく持ち合わせがないって。ツケでいいだろ?」
先輩が言いづらそうに口ごもっていたから、
頼まれていないけど代弁で言わせてもらった。

「ああ、ツケだな。それとも体で払っていくか?」
うししと、オヤジが嬉しそうに笑う。
しばらく来院のなかったミナミ先輩を、
オヤジなりにからかっている。

そうだと判っているのに俺はむすっとした。
とても面白くない風景だった。

「なんてな。ジョークに決まってるだろう」
と、ベッドを囲むカーテンを引き、オヤジは治療を開始する。

「さてと三波君も治療入ったし、あんたもご飯食べてきな」
「うん。先輩、終わった頃またきます」
「ありがとうね、マキ」
俺は治療院を出て、裏口にある玄関へいった。

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