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  [ 風のように遥かに 7 ]
2010-08-04(Wed) 12:55:32
皺になった制服を洗濯機に放ってから、ごはんを食べた。
おかわりを頼みながら、先輩を送ることを母親に伝え、
それから再度治療院へといく。
顔馴染みの患者さんに挨拶しつつ、
ミナミ先輩のベッドに近寄っていくと、
治療中である先輩のベッドに、
妹がちゃっかり座っているのが見える。

引かれたカーテンで全部が見えるわけじゃないけど、
足元と会話の様子で、それが妹だと判った。

「そっか来年受験なんだね」
「そうなんです」
「どこの高校を受験するの?」
「やっぱり和賀高ですかね。うちみんなそうだし」
「ここから近いもんね」

仲良さそうな会話に、俺は腹が立ち、
カーテンの前から声をかけた。

「おい、ミナミ先輩治療中なんだぞ」
「いいじゃない、針してる間くらい。ねえ三波さん?」
「うん、構わないよ僕なら」
先輩がそう言った瞬間、針終了を告げる電子音が鳴った。

「三波君、これから針取るからね」
手の空いていた兄が来て、
声をかけながらカーテンへ入っていき、妹を追い出す。

ふてくされた妹は俺を睨みながら、あっかんべーをした。
負けじと俺も、べーっと舌を出してやると、
妹は俺を睨みながらぷいっと顔を横に向けやがった。

なんだよお前も先輩を狙ってんのかよ。
中学生のくせに色気づきやがって。

「そこにいると片付けの邪魔なんだけど?」
兄の声で、俺達はささっと退避した。

すると、着替えの終わった先輩が、
ベッドに座りながらカーテンを開けた。
顔色がすっかり元通りになっている。

「これで終わり、兄貴?」
「ああ。ごはん食べてけって言ったんだけど、
 まだちょっと体の調子が戻らないみたいだ」

兄は、針とか装置を所定の位置に戻して、
手を洗いに行った。
針灸前後は、清潔のため手洗いが必要なのである。

「針やったばかりでまだ体がふらついているから、
 あんた、ちゃんと送っていきなさいよ」
「うん。そのつもり」
言いながらきた姉に、俺はこくりと頷いた。

「先輩、いきましょう」
ベッド下にある先輩のバッグを担いで、
掴まってくださいと言わんばかりに、腕を差し出す。
すると、ぎゅっと手を掴まれた。

「うん。ありがとうございました。
 代金は明日、ちゃんと持ってきます」
「そんなのいいから、ちゃんと定期的においでね」
「はい」

先輩は、父親と兄と姉に一礼し、にこりと妹に笑ってから、
とたとたと俺の後をついてくる。
治療院前に停めた自転車の、歪んだカゴにバッグを入れると、
再び先輩を荷台に座らせ、俺はペダルを踏んだ。

どっぷりと日は沈んでも、風はどこか生ぬるい。
でも、俺は、勝手にデート気分になっていた。

「先輩、体調はもう平気っすか?」
「まあまあ、かな」
「そうっすか。よかった」

先程同様、俺の腰にしがみつく細い腕。
その温もりを味わいながら、ちらりと振り向くと、
先輩は、柔らかそうにほにゃりと笑った。

今絶対、周りに花が舞った。
そう想像させられるような笑顔だった。

「それにしても、夜なのに暑いね」
と、先輩は、しっとりと汗に濡れた髪を上げる。
その白い首筋が視界に入ると、
俺のビジョンには美味そうに映ってしまった。

うおおおおお、邪念がもう末期だ。
末期になったのをいいことに暴走してしまいそうだ。

「マキ!危ないよ!」
妄想しながらの運転が、かなりふらついていたらしい。
言われて前をむくと、そこに電柱が出現した。
どうにか電柱を回避すると、息を荒げてハンドルを握り直す。
「す‥すんません!」

転倒なんかして先輩にケガさせたら、それこそ本末転倒である。
冷静になるべく深呼吸をし、ペダルを踏みしめた。

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