BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 風のように遥かに 8 ]
2010-08-05(Thu) 03:15:11
途中、先輩にコンビニへ立ち寄りたいと要求された。
「マキ、どっちがいい?」
と言いながら差し出されたのは、レモンとミルクのアイス。
先輩は、飲み物を買ってくるって言っていたのに、
アイスに変更した挙句、俺のアイスまで買ってくれた。

「じゃあ、レモンをゴチになります」
ガードレールに並んで座って、俺達はアイスを頬張る。

「アイス美味いっすね」
「そうだね。いかにも夏って感じだよね」
ぱくっとアイスを頬張ったミナミ先輩。
その口脇から、溶けたアイスが零れていく。

白いアイスが垂れるのを見ていたら、
なぜだか卑猥な妄想をしてしまい、思わず口元を押さえた。
この邪念、退散させないとマジで危険だ。

「どうしたの?」
「ふえ?あ、や、何でもないっす!」
覗き込んだ先輩に顔を背けて、アイスを食い尽くした。

「‥ちょっと意外だったなあ」
先輩が、アイスの先をぺろりと舐めながら呟く。

「何がですか?」
「マキはミルクを選ぶかなって思ったんだ」
「先輩、もしかしてレモンが食べたかったですか?」
「違う違う。そういう意味じゃないよ」

微笑し軽く首を振る先輩に、俺はこう続けた。
「俺はミルク臭いガキ、ってことですか?」
自分で言っておいて気分が悪くなった。

「そういう意味でもないよ。
 マキにしては随分と卑屈な意見じゃない」
「だって‥」

だって、俺はガキ扱いなんて、されたくない。
先輩を守っていける立派な男になって、
そして、俺のことをいつか認めてほしいだけだ。

ただ、こんな思いなんて届かなくていい。
この関係を保持して、先輩をずっと見守っていきたい。

「だって、の続きは?」
「‥レモンってキスの味じゃないっすか」
「キスしたことないの?マキもてるよね?」
「もてませんよ」

1ヶ月に約2回、告白されているのは事実だ。
リレーの影響なのかはたまたサッカーの影響なのか、
どちらにせよ、俺のことを好きになってくれる子がいる。
でも、俺は、恋愛よりもサッカーに集中したかった。

だから、告白は、どれも全て丁寧に断ってきた。
ただ、告白される頻度が、多いのか少ないのか、
それがもてるという指数になるのかどうかは、
俺自身、判断つかないし興味すらもなかった。

「先輩は?したことあるんすか?」
じっと見ながら訊ねると、ミナミ先輩は、
何か言おうとしていた唇を止めてしまった。
キスのことどう言おうか悩んでいる、そんな表情だった。

たぶん、キスくらいしたことあるんだろう。
言えないのは恥ずかしいからか。
それとも、言えないような理由を含んでいるからか。

その時、残っていたミルクのアイスが溶けきってしまい、
真っ白い液体が先輩の手を汚した。

「あ‥あはは‥アイス溶けちゃった‥タオルタオル‥」
先輩は、作った笑顔を浮かべて、
タオルを取ろうと慌ててバッグを探っている。

慌てている表情すら愛しくて、邪念も限界で。

俺は先輩の手首を掴み、手に流れるアイスを舐め取った。

「‥え?」
驚くミナミ先輩の手首を離さないで、
指と、指の間と、腕にまで零れた甘いアイスを、
ゆっくりと舌で舐め取っていく。
先輩の皮膚や、爪さえも味わうように。

眉間に皺を寄せながら息を飲んだミナミ先輩は、
手を払うこともなく、俺を怒ることもなく、
舌を這わしている俺を見ているだけだった。

全てをキレイに舐めてから、俺は先輩の手を解放した。
「はい。キレイになったすよ」
「う‥うん‥ありがと‥」

それからの先輩は無口になってしまった。
家まで送って玄関で別れた時さえも、
お礼は言われたけど目を合わせてくれなかった。
あんなことしたから怒らせたんだと思う。

邪念退散ができなかった意志薄弱な、自分。
この思いは、退散するのではなく受容するしかないのか。

胸がちりちりと痛む。
筋肉痛とは全然違った、これまでに感じたことのない痛みに、
俺はちょっぴり切なくなって泣きそうになった。

走ってきた道路を戻りながら、
明日ミナミ先輩に謝ろうと誓った。

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