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  [ 風のように遥かに 9 ]
2010-08-06(Fri) 03:30:22
朝7時、食卓に並んでいた朝食を平らげた。
いつもは美味い朝食なのに、
今日はなんでだか味があまり判らないまま満腹になった。
玄関を出て自転車に乗る。
太陽は上昇し、朝だというのにもう暑かった。

そんな中で思い返すのは、先輩の手を舐めた感触。
男っぽい手なのに柔らかくて、ふっくらしていて、
食べたくなってしまうような手だった。
そのシーンが頭でリピートされる。

追い払えなかった邪念は勢い付いてきていた。
自分の感情が、コントロールできない。

昨日の昼間に目撃した、ジョーとウツミのキスのせいだ。
あれさえ見なければ、きっと先輩と後輩でいられた。
見たからこそ急に、押さえていた衝撃が弾けてしまった。

でも、叶わない恋だと知っている。

ミナミ先輩にはたぶん、好きな人がいる。

体力は有り余っているのに、精神が削り取られていく。
そんな悶々とした状態で、あっという間に部室前に着いていた。
誰もいない部室内は静かだった。
そんな静けさの中、つい独り言を呟いた。

「ミナミ先輩と2人きりなら、舐めたこと謝れたのに‥」
「僕が何?」

背後にミナミ先輩がいた。

「んがあ!先輩!いたんすか!」
びっくりして、ギャグのように飛び退いてしまった。

「おはよう、マキ。
 それにしても、そのリアクションは古いんじゃないかな?」
ぽんと俺の肩を叩いて、さらりと酷評してくる先輩は、
悪びれた様子もなく笑っていた。

「脅かさないで下さいよ」
「声かけただけで脅かしてないよ」
先輩は、ロッカーを開けてバッグを入れる。

俺は、ほぼいつも部室に一番乗りしていた。
1年生として基本だし、それに練習の準備のためだ。
ミナミ先輩も俺と同様らしく、
マネージャーとして早めにくることが多かった。

そうだ、このチャンスを逃してはならない。

「先輩」
俺は、ミナミ先輩の真横で深々と一礼をした。

「え?何?」
「昨日は、すみませんでした」
「え?え?昨日?」
どうして謝られているか判らない、という表情のミナミ先輩。

頭を下げたまま俺は続けた。
「溶けたアイス舐めちゃったの怒ってますよね。
 先輩あれから無言になったから‥謝らなきゃと思って‥」

言いながら頭でリピートされる、昨日の場面。
それを押し殺すように唇を噛むと、先輩が焦った様子で笑った。
そして、片手を軽く振る。

「ち‥違う違う、怒ってないから謝らないでよ」
「本当っすか?」
「うん。本当」
「よかった。嫌われたかと思いました」

ほっとしたのも束の間。

それなら、どうして昨日の先輩は無言になったんだ?

謎を探るように先輩の瞳を見つめると、
顔を伏せながらふいっと目を逸らされてしまった。
先輩、やっぱりまだ怒ってるじゃん。

「ほ‥ほら、さっさと練習の準備するよ」
「‥はいっす‥」

がくりと項垂れながら、先輩の後について用具室へ向かった。

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