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  [ 風のように遥かに 11 ]
2010-08-06(Fri) 17:30:13
「あの、実は俺‥好きな人ができて‥」
どこまで話そうか考えながら、少しずつ言葉を綴った。

「そうか。まあ高校生ともなれば当然だろう」
タツ先輩も高校生ですよ、とはツッコミ入れずに、
教師みたいな口調に苦笑いした。

「マキ、それで?」
リュウ先輩が、先を促す。

「それでって、それだけっす」
「は?コクりたいとか付き合いたいとか、
 そういうのを悩んでるんだろ?」

俺に迫るリュウ先輩に首を振ってみせた。
「たぶんその人には好きな人がいるので、
 自分のそういう気持ちにどう決着つけようか、と」
「そうだったのか。コクるより難しそうな悩みだなあ」

リュウ先輩が腕を組んで唸り始めると、突然、
「すまん!」
と、タツ先輩が俺に謝罪した。
それも、テーブルに額を擦りつけながらで、
びっくりした俺はおろおろした。

「や‥やめて下さい。どうしたんすか、タツ先輩」
「俺は、恋愛の経験が皆無で、マキに助言ができん。
 それで謝った。すまん」

どこまでもマジメで、そして優しい、タツ先輩。
真剣に聞いてくれただけでもう俺は満足だ。

「話聞いてもらっただけで充分っすよ。
 だから謝らないで下さい」
「いいや。それはできん。マキが辛いのに俺ときたら‥。
 そもそも恋愛経験がないのは、
 やはりこの風貌とサッカーが原因なんだが‥」
「ああもう、リュウ先輩助けてよ」

ヘルプを出すと、リュウ先輩は笑顔のまま、
タツ先輩の耳に接近して、囁くように言った。
「可愛い後輩が、やめて下さいって言ってんじゃん?」

すると、タツ先輩が赤面して、がばっと顔を上げた。
ごほんと咳払いしたタツ先輩は、息を吐き髪型を整え直す。

何なんだろうこの人らは。
これが両先輩のリズム、というかペースなんだろうけど、
どこかに引っかかるものを感じた。

「すまなかった、マキ。ちょっと取り乱してしまった。
 リュウ、マキにアドバイスできないのか?」
「俺?そういう経験ないからなあ」
リュウ先輩は、イスを揺らしながらコーラを飲む。

「それに、俺達サッカー一筋だしな。なあタツ?」
「うむ。一筋もまた人生、恋愛もまた人生」
仙人のごとく悟ったように語ったタツ先輩。

「しかし、どこかに適任者はいないのか。
 マキと親しくアドバイスをくれそうな者は」
「あ、だったら三波なんてどう?」

突然の一言に、ファンタを吹きそうになった。
ずばり目標の人物に相談しろってか。
いくらなんでも無謀というかムリすぎる。

手と顔をぶんぶんと横に振りまくった。
「いやいや。いいですいいです。大丈夫です」
「マキと三波は中学も一緒だしさ、それに仲良しだろ」
「それはそうですけど、でも‥あの‥」

語尾を濁しながら弁明を探す。
探しながら顔がみるみる赤くなっていった。
このままだと相手がミナミ先輩だとバレそうで、
顔を見られないように下を向く。

「どうした?好きな人とは三波の知ってる者なのか?」
タツ先輩の言葉に、下を向いたまま首を振ると、
テーブルの向かいから、両先輩の大きな溜め息が聞こえた。

すると、ぽんっと頭を叩かれた。
それでも顔を上げずにいると、タツ先輩が優しく言った。

「誰であろうと人を好きになるのは、いいことだ。
 そのエネルギーをサッカーに向けられたらもっといいがな。
 ただ、辛いならマキが楽になれるように動いたらどうだ?」

俺が、楽に?

そういう考えはなかった。

思いを押さえ込もう、退散させよう、受容しよう、
とそればかりだった。

心にことんっと落ちてきた、タツ先輩の台詞。

俺は静かに顔を上げて、ぺこりと一礼した。
「はいっす。ありがとうございます」

「さっさと告白してさ、さっさと振られてさ、
 さっさとサッカー一筋になっちまえよ。かかか」
リュウ先輩が茶化すように、笑いながら言う。

「デリカシーがないぞ、リュウ」
「いきなりSだのMだの言うタツに言われたくないっての」

両先輩は、それから俺の話題を避けるように、
サッカーの今後の練習メニューについて、マジメに語り始めた。
俺もそれらに混ざらせてもらい、
久し振りにミナミ先輩を思い出さない時間をすごした。

1時間後に現場解散し、両先輩は駅へと歩いた。
駅とは別方向に自転車を走らせる、俺。

昨日ミナミ先輩と寄ったコンビニ前でストップする。
そこで買ってきたオレンジのアイスを食べながら、
俺は思い切って、相談できそうな人物にメールを送信した。

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