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  [ 風のように遥かに 13 ]
2010-08-09(Mon) 18:20:13
食器を片付け、ウツミが皿を洗っている。
その隣に立つジョーは酒を作っていた。
「マキは何飲みたい?」
「ビールある?」
「あるある。どのビールにするか、こっちに見にこいよ」

言われて冷蔵庫を開けると、ビール数種類並んでいた。
生、黒、ドイツビールに地ビールまである。

「何でこんなに揃ってんだ?」
「それ、父親の趣味」
「アリゾナにいる?」
「そう。たまにこっち戻ってきては、
 ビール揃えて、飲まないでまたあっちに戻るんだ」

だからなかなか減らなくて困ってんだよ、とジョーは笑った。
そこから地ビールを取ると、
「酵母の関係で、地ビールは賞味期限が早いんだよな」
と、溜め息つきながらジョーはトリビアを付け加えた。

そのジョーはカウンターに、何やら色々と並べている。
「ウツミは何飲むんだ?」
「‥レモン酢のやつ」
「はいよ。俺、マキと地ビール飲もうかな」
「レモン酢って何?」

ジョーの手元を見ると、レモンが漬かっている瓶があった。
「これは、母親の趣味。何でもかんでも酢に漬けるんだよ。
 床下にたくさん貯蔵されてるんだ。
 これ焼酎で割ると美味いぜ。後で飲む?」

そういう飲み方もあるのか。
うちにあるのは、せいぜい梅酒の焼酎漬けくらいだ。

「‥ジョー終わった」
「おう。じゃあ、あっち運んでみんなで飲もう」
「‥うん」

ジョーとウツミの姿をちらちらと見てしまう。
2人、キスしてたんだよな。
ってことは、色々なことしている可能性もあるわけだ。
そう考えて、ビールを飲む手が止まった。
ついでに俺の顔が赤くなる。

「どうした?もう酔ったか?」
「いや、何でもない」
ジョーはウツミと目を合わせて、首を傾げながら肩を竦めた。

赤面している場合じゃない。
アドバイスというより心の持ち方のヒントがほしかった。
だから、俺はここへ訪ねてきた。
好き、という感情だけでは解決できない問題について、
3人で色々と喋ってそこから何かしら得たかった。

ごくり、と息を飲んで口を開く。
「ジョーとウツミは、どんなきっかけで付き合いだしたんだ?」

ぶはっと、ウツミがレモン酢を吐き出した。
しばらく咳き込んでから、真っ赤になって俺を見る。
「‥な‥マキおかしいぞ何言ってんだよ」
「いいんだ。俺達がそういう関係だって、マキは知ってる」

驚きのあまり言葉を失うウツミと、余裕そうな笑顔のジョー。
ウツミは、俺を見て、ジョーを見て、また俺を見た。
何か言いたいけど声が出てこない、という表情になると、
目だけがおろおろし始めた。

その背中を、ジョーが優しく撫でる。
「大丈夫か?」
「‥ごめん。ちょっと混乱してる」

こうやって目の当たりにすると、
相手を思いやっている気持ちが伝わってくる。
チャラそうな男女のカップルよりずっと恋人っぽい。
ある意味うざいけど、ある意味うらやましい。

「ウツミと俺とのこと、マキは自分で気付いたんだ。
 それを踏まえて、ここに相談しにきた。
 これがどういうことか、ウツミ判るだろ?」
「‥あ‥うん‥」

ウツミは俺のことを察したらしく、
顔を赤らめたままソファに深く座った。

「ってか、マキいきなりすぎ」
ジョーが苦笑いをして、地ビールの空瓶をテーブルに置く。

「そうだな。ごめん」
「謝るくらいならいきなり聞くなっての。
 えーと、きっかけ?ウツミどこまで話していい?」

ジョーに聞かれたウツミは、静かに頷いた。
「‥いいよ、全部」

それから、ジョーは簡単に説明してくれた。
そこにはあったのは、お互いの両親と学校が絡んだ、
現実であったドラマのような展開。
耳をそれに傾けながら俺はビールを空にした。
自分がいかに平和なのかを、ひしひしと感じさせられた。

2人は、対と言わんばかりに支え合っている。
今後もずっとこうして一緒にいるんだろう。

自分の問題の小ささに呆れていると、
新たなビールを運んできたジョーに言われた。

「これは俺達の問題だから、あんまり考えるなって。
 それから、今のとマキの悩みの大きさを比べるなよ。
 問題のレベルや大小はそれぞれなんだし、
 マキにはマキなりの悩みがあるんだろうからな」

俺はビールに口をつけながら、敵わないと思った。
どうやったらこういう懐を手に入れることができるんだろう。
こういう部分はぜひ見習いたいもんだ。

ジョーの台詞にウツミも感心している。
得意げな表情で、地ビールを飲むジョーを見ながら、
俺は、ぽつりと白状した。

「俺ミナミ先輩が好きなんだ‥」

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