BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 青い空を見上げて 10 ]
2010-05-30(Sun) 16:08:33
阿久津城


「‥ケンカ強いの?」
ウツミは、ナスの漬物をつまむ。
俺はその隣の、カブの漬物をつまんだ。
「さあ、どうだろうな」
これでも謙遜している、つもり。
ケンカが強いだの弱いだの、そんなの自慢にならない。
腕力にちょっとばかり自信があってもだ。

「スーパーに買い物に行ったらさ、
 いきなり男の集団に囲まれたんだ。
 その時はさすがにヤバイって思ったな。
 囲まれたから逃げられないし、
 何となくケンカ慣れしてる感じがしたし」

ふと顔を上げると、ウツミが珍しく俺のことを見ていた。
潤んだ瞳で、真剣に、真っ直ぐ。
ぺろり、と唇を濡らす舌の動きが、ちょっとエロい。
うっすら赤い頬が色っぽくて、ウツミに妙な色気を感じた。

どきっと、胸が鳴る。

「‥それでケンカしたんだ」
と言ったウツミの声で、はっと我に返った。

今バカバカしいことを考えていた。
ワインを煽って、ふっと肩の力を抜いて、気を取り直す。

「スーパーから出てきた俺に、金くれって言うんだぜ。
 バイトしろって言ったらいきなり殴られたからさ、
 リーダーっぽい奴を特にボコってやった」
「‥ケガした?」
「俺は、ちょこっと口の中を切っただけ。
 ケンカ売ってきた奴らは、残念ながら病院行き」

ウツミが、ぞっと青ざめたように呟いた。
「‥病院行き」
「後から聞いた話だと、リーダー格の奴なんかは、
 ちょっとばかり入院期間長かったらしいけど」

らしい、というのは俺はよく知らないからだ。
事後処理は、弁護士と保険屋が、ちゃんとやってくれたから、
俺はそれらの報告を聞くだけだった。

言いながらグラスを置いたら、頭がくらっと揺れた。
ちょっと飲むペースが早かったか。

気付いてみればでデカンタ6杯目だった。
サワーのジョッキは、4杯目で、それももう底を尽きそうだ。
ウツミは、ジュースを飲むようにジョッキを空にしていく。
顔色はまあまだ平気そうだけど、
お互いにペースダウンしないと厳しかもしれない。

「‥ふーん」
俺にケンカを売ってはいけない、と学習しているウツミの表情。

「結局それが原因で、一ヶ月の停学処分。
 ここで両親の登場ってわけ。
 仕事の都合で、アリゾナに住んでるんだ。もう3年目かな。
 こっちに留学できるように交渉してあげるから、
 アリゾナに遊びにくれば、ってな」

今思えばとんでもない交渉だけど、
それがあっさりと通ってラッキーだった。
ついでにアリゾナの高校と和賀高を姉妹校の契約までしたという。
もちろんツテを使ったんだろうけど、
両親にはマジで感謝している。

「だから、俺は今、こっちで一軒家に一人暮らしなんだ」
うししと笑いながら、そう付け加えた。

すると、ジョッキを握り締めながら、ウツミは静かに俯いた。
「‥ジョーは悪くないのに、停学?」
「うん?ああ、まあな。
 そうなんだけど大人には色々あるみたいだから」

あっちは有名校のおぼっちゃん軍団だった。
つーか、おぼっちゃんのくせにカツアゲとは、笑いも出ない。
その、リーダー格の親が偉ぶっていて、自分は地主で、
PTA役員してて、知人が議員で、ととにかく騒いでいた。
挙句、訴えるって言われて、でも情けがあるからとか言って、
訴えるのは止めたらしい。

本当に訴えていたら負けるのはあっちだ。
あっちもそれを途中で理解したらしいけど、
引くに引けなくて騒ぐだけ騒いで、
しょうがないから許してやるってモードに入ったらしい。
プライドが高いというのは、本当に厄介で面倒だ。

うちの親はよくそれを許して、それら全てを収めたよな。
俺から見ても、さすがに感心しちまう。

ま、面倒な大人の世界は、オフレコということで。

ウツミは唇を噛み締めながら、ぼそっと聞いてきた。
「‥悪くないのに悪くされて嫌にならなかった?」
「まさか。両親と友達は、ちゃんと俺を信じてたから」
 
だからこうして退学にはならなかったし、
美術部として学園祭に、イラストの参加ができたわけだ。
商業の勉強についていけなくて留年を余儀なくされたけど、
ほとぼりが冷めるまでアリゾナに行っていられたし、
最善の結果だ。

「‥俺、トイレ行ってくる」
下を向いたままウツミが立ち上がると、
体がフラついたらしくテーブルに手をついた。

「おい、大丈夫か?」
「‥平気」
ウツミは壁を伝ってトイレに足を向けた。
吐きそうには見えないけど、そろそろ8時になるし、
もう店を出るか。
風にあたれば酔いも覚めるだろう。

俺は義経を呼び、会計をしてもらうとこう忠告された。
「ケンカした連中が最近になって、
 ジョーのこと探してるみたいだぞ。
 こっちに戻ってきたのを知ってるみたいだ」

進学校に行っている友達が教えてくれた、と言った後に、
気を付けろよと付け加えてくれた。

「ありがとな」
と、俺は義経に笑い、また飲みにくるからと伝えた。

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