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  [ 風のように遥かに 21 ]
2010-08-17(Tue) 05:55:21
ロッカーに重い体を預けながら、
粘つくような余韻を味わっていた。
先輩は、俺の上に乗ったまま肩に頬を乗せている。
しばらくして、先輩は静かに立つと、
バッグから取り出したティッシュで俺を拭く。
続いて自分も拭いて、それを丸めてバッグに入れると、
黙ったまま着替えを始めてしまった。

先輩は、ロッカーに向いたまま訊ねてきた。
「マキは僕と付き合いたい?」
「はいっす」
「ごめんね。好きな人いるんだ」

突然の発言に、真っ暗になる目の前。

ブラックホールに吸い込まれていくような、
体がふわふわと浮くような感じがした。

だったら、どうしてキスしてきたんだろう。

どうして体を繋げてきたたんだろう。

先輩の後姿が、それらを聞くなと訴えてくる。
だから、口を開きかけて唇を噛んだ。
怒り悲しみが沸々と込み上がり、拳を握る。

すると、先輩は強い口調で、こう言った。
「マキ先に帰って」

もう、ここに残る理由は何もなかった。
先輩の後姿へと無言で一礼し、俺はバッグを手に、
静かに部室を去った。

セミの鳴き声が聞こえる。
さっきまでの出来事が非日常のような、
とても遠いものに思えた。

日常が平等に、ゆったりと流れている中、
俺はぽつんと時間と時間の狭間に置いてきぼり。
心の穿ちを日常が通り抜ける、そんな気さえした。

鼻の奥が、つんと痛くなる。
途端に、涙が溢れてきて頬を伝っていった。

どうせだったら普通にふられたかった。
やることやって、好きな人がいると言われて、
俺という存在は何だろう。

扉でもコンクリートでも何でもいい。
とにかく殴りたかった。
悲しみをぶつけられるものが欲しかった。
いや、そんなことしたって、
事態は変わらないし気分が晴れるはずもない。

何をどうしていいか判らない。
考えがまとまらない頭で、ただはっきりしているのは、
ミナミ先輩のこと、嫌いになれないし諦められない、
ということだけ。

すると、先輩しかいない部室から、すすり泣く声がした。
「ひくっ、うう‥ひく‥っ」

先輩、どうして泣いてるの。

俺のことふったくせに泣くことないでしょう。

先輩の嗚咽が、心に響く。
苦しさがこっちにまで伝わってくる。

やっぱり好きだ。
好きだから苦しいし切なくなる。
自分の痛みよりも先輩の痛みのほうが、
ずっとずっと痛くて辛かった。

だけど、部室の扉一枚が、大きな隔たりに思えて、
抱き締めにいきたかったけど前に進めず、
俺は、シャツを握り締めながら踵を返すしかなかった。

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