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  [ 風のように遥かに 24 ]
2010-08-19(Thu) 04:25:51
先輩宅の敷地に自転車を駐輪し、
口を利かずにひたすら道を歩くこと、約20分。
星崎という表札のある一軒家で、先輩が停止する。
「ここだよ」
言いながらインターホンを押す、ミナミ先輩。
すると、玄関の扉から女性が出てきた。
中年だが美人で、見惚れそうな笑顔だった。

「おはようございます、おばさん」
「おはよう、トキちゃん。いらっしゃい。
 そろそろくる頃だと思っていたわ。そちらは?」
「部活の後輩。飛鳥のこと自慢したら、
 逢いたいって言うから連れてきたんです」

先輩に肘でつんと突かれた。
ちゃんと挨拶してね、と言われているような気がして、
俺はびしっと背筋を伸ばしてから、礼儀正しく一礼する。
「初めまして。仁志天清です。
 ミナミ先輩には部活でお世話になってます」

おばさんは感心したような表情をしながら、
軽くおじぎを返してくれた。
「あらまあ。とても丁寧な後輩さんね。星崎明美です。
 どうぞ上がって下さい。飛鳥もきっと大喜びするわ」

おばさんが快く招き入れてくれた。
玄関に入っていく先輩に続いて、俺も中へ入る。

通された和室には仏壇が置かれていて、
そこには若い男性の写真が飾られていた。
俺よりも年上っぽい爽やかな男性は、
癒されるような最高の笑顔を見せてくれている。

その前に座って、おばさんが仏壇に微笑みかけた。
「飛鳥、トキちゃんと後輩さんがきてくれたわよ」

この男性が飛鳥さん?

それじゃあ好きな人っていうのは。

「久し振り、飛鳥」
飛鳥さんへそう話しかける先輩。
花束を静かに仏壇に添えて、俺へ泣きそうな顔で笑う。

すると、おばさんが急に立ち上がった。
「いけない。私ったらお茶も出さないで。
 ごめんなさいね。ちょっとお茶用意してくるわね」

いいよお茶なんて、と先輩がそう遠慮するも、
おばさんは優しく笑って去っていった。

おばさんが去ったのを確かめて、
写真を指で撫でながら先輩が口を開く。
「これが好きな人だよ、マキ。
 星崎飛鳥っていう5歳上のいとこ、だった」

線香に火を点けて、先輩は目を細める。
煙と共に、線香特有の香りが和室内に漂った。

「付き合い始めたのは、3年前。
 きっかけは僕の勉強を飛鳥が見てくれて、
 それで自然とそういう関係になった。
 ませた子供の恋愛だった。それでも僕は幸せだった」

陶器の線香立に、既にもう3本線香が立っている。
その隣に先輩は線香を立てて、おりんを小さく鳴らすと、
すうっと息を吸い込んだ。

「だけど、去年の今日、交通事故に遭って亡くなった。
 公園を飛び出してきた子供が車に轢かれそうになって、
 それを助けたんだって聞いたよ。
 ベタだよね。ベタだけど飛鳥らしいかな」

マキもお線香立てて、と促され俺はそれに従った。
先輩と交代し、写真をじっと見据える。
写真からでも伝導されるのは、優しそうで温かそうで、
考えるよりも先に人を助けてしまう、
そんな正義感溢れた、飛鳥さんの人柄。

最愛の存在が、突然、目の前から消え去ったら。

考えただけで泣きそうになった。

俺はバカだから想像できないし理屈とかよく判らないけど。

「それでも、先輩を好きだって気持ちは変わらないっす」
細い両腕を掴み、喉の奥のつっかかりを吐き出すと、
先輩は、驚いて目を丸くした。

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