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  [ 風のように遥かに 25 ]
2010-08-19(Thu) 07:40:28
おばさんが、トレイを手に戻ってきて、
俺は思わず先輩から手を離した。
「トキちゃんの好きな塩大福を持ってきたわ。
 後輩さんも召し上がってね」
トレイには麦茶と和菓子が用意されてあった。
風通しがいい和室は、エアコンが無くても涼しかった。
それでも、冷たい麦茶は嬉しい。

「はい。いただきます」
和室の上品な座卓に、それらが並べられて、
麦茶を飲んで塩大福を食べる。
後味がさっぱりとしていて美味しい。
さすが先輩の好物だけある、なんて思ってみたり。

俺達が、塩大福を食べて麦茶を飲むと、
おばさんは手をぱんと叩いた。

「そうそう。トキちゃんが来ると思っていたから、
 ビッグニュースをとっておいたのよ」
「何ですか?」

先輩と俺のコップに麦茶を注いだおばさんは、
ポットをトレイに置きながら言った。

「昨日の夜中、敦美にやっと陣痛がきたの。
 でね、今朝になって出産したのよ。男の子よ」
「おめでとう、おばさん。それと敦美姉さんも」

明るい笑顔を見せた先輩が、
飛鳥にお姉さんがいるんだと小声で教えてくれた。

「今日、これから飛鳥の友達くるんですよね?
 おばさん忙しくなるし、母さんには僕から伝えておきます」
「ありがとう。それじゃあ妹への伝言をお願いするわ」

それとね、と続けておばさんは携帯をポケットから出す。
「産まれた赤ちゃんね、飛鳥と同じ場所に、
 ホクロがあるんだって、メールが送られてきたの。
 ほら、目のとこにホクロあったの覚えてるかしら?」

おばさんは、こちらに携帯の画像をむけた。
そこには産まれたばかりの、柔らかそうな赤ちゃんがいた。
眠っている顔のアップで、その目元をおばさんが指差す。

「もちろん覚えていますよ。すごい偶然ですね」
俺は仏壇の写真を見た。
右の目の下に、小さいけれども色っぽいホクロがある。

「そうなのよ。すごい偶然でしょう。
 敦美とその旦那さんが、飛鳥の生まれ変わりだと言うの。
 いいことしたから生まれ変わったのよって」

携帯を閉じながら写真へ笑いかける、おばさん。
つられるように、先輩も仏壇へ微笑む。

するとおばさんは、慌てて携帯を閉じた。
「あらあら。喋っていたらお茶なくなっていたわ。
 おかわり持ってくるわね。大福ももっと追加しちゃうから」

もういいですから、と言っても、
好きでしてるから気にしないで、と笑うおばさんは、
空のポットと皿をトイレに乗せて、足取り軽く部屋を出た。

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