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  [ 風のように遥かに 27 ]
2010-08-20(Fri) 09:25:31
その時、おばさんが慌しく戻ってきた。
「ごめんなさいね、お待たせしちゃって。
 あらあら、トキちゃんまた泣いているの?」
「またっすか?」
訊ねるとおばさんはくすっと笑った。

「そうよ。トキちゃんって昔からすぐ泣くんだから。
 例えば小さい頃、敦美とプールで迷った時とか、
 飛鳥にちょっと叩かれた時とか、それから虫が怖いとか‥」
ポットを傾け麦茶を注ぎながら、おばさんが教えてくれる。

「小さい時のことだし、今はもう泣いたりしませんよ」
「うふふ。でもどれも本当のことでしょう」
先輩の苦笑いを、さらりと流したおばさん。

なんだかそれ全部が想像できてしまい、
先輩のその可愛らしさに、口をにやりと緩めていると、
おばさんは、最後にこう追加した。
「飛鳥のお葬式も、トキちゃんが一番泣いていたわね」

先輩が一瞬、僅かに目を細めた。
そんな先輩に微笑んで、おばさんは口を開いた。

「たくさん泣いて悲しんで、それを受け止めないと、
 人間っていうのは前進できないの。
 だから、トキちゃんが泣いてくれて嬉しかったわ。
 この子はちゃんと進んでいけるって思ったから」

笑顔でいることが飛鳥さんへの供養のように、
ぐずっと鼻を啜りながらも、おばさんは微笑んでいた。

つられるように鼻を啜っている俺を見て、
「そうそう、それとこんなこともあったわ。
 雨上がり水溜りを歩いただけでも泣いちゃってね、
 飛鳥が、トキちゃんをおんぶしてあげたのよ」
と、おばさんが茶化したような笑顔になった。

「頼むから後輩に余計なこと言わないで、おばさん」
おばさんのお喋りを止めようと、必死な様子の先輩。
そんな様子もこれまた可愛いかった。

先輩の表情が、何となくすっきりしたように見える。
さっき、飛鳥さんからいい返事をもらえたのか。

それに嫉妬しつつ、3人で少しばかり雑談を交わして、
静かに星崎家を後にする。
そして、飛鳥さんへ宣戦布告しそびれたと気付いた。

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