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  [ その雪景色窓辺より 4 ]
2010-09-10(Fri) 04:10:28
ボードはキャリアに、ブーツ類はトランクに積んで、
俺の車一台で行く。
レストランハウス前でボードをセットし、
青柳と中級コース行きのリフトに乗っかった。
まずは準備運動がてら、雪質を味わいながら緩く滑走。
相変わらずのスノーパウダーは最高で、
きらきら輝く雪を楽しみながら、中腹へと到着した。

「じゃあ、僕はこのまま中級を滑っていくから」
と滑り去る青柳に手を振り、別コースへむかった俺は、
コース途中のリフトを利用して、上級コースへ出発する。

ここのスキー場はコースが多く、
人がばらけるせいか混んでいるとこを見たことがない。
時々、運が良ければコースを独り占めもできる。
そんな時は背後を見ながら、端から端まで使って、
大きくターンしながら滑っていくのが、俺は好き。

何度か滑走し、昼になったのを確かめて、
青柳と待ち合わせしている食堂に足を向けた。
混雑する店内に、オレンジのウェアは見つけやすくていい。

「お疲れ。シーズン初滑りはどうだった?」
「おかえり。よかったよ。去年よりも俄然いいね」

車でここへ向かいながら、青柳自身について色々訊ねた。
ペンションの利用は2年目で3回だということ、
今シーズンは初めてきたということ、
そして、これまでは電車とバスを利用していたということも。

イスに座って、店員を呼んで定食を頼んだ。
タイヤの恩があるから、と青柳が高い定食を告げる。
いつもは、レストランハウスで500円ラーメンの俺が、
定食で2000円、ってプチ贅沢というか、
タイヤくらいで申し訳ないというか、複雑な心境だ。

店員に出された緑茶を飲んでいると、青柳が突然、
面白いことを質問してきた。
「赤石って、普通の社員?」

普通じゃない社員があるなら、俺がそれを知りたい。
青柳は、何についてどう思って訊ねたのだろう。
ここはやはり、ツッコミを入れるか、ジョークで答えようか、
どっちで笑いをとれるか悩むところだ。

俺は青柳に迫り、真顔になって耳打ちした。
「肩書きは社員だけど、実はここだけの話、秘密諜報員」
「え?ウソ?」
青柳の表情が、まずいことを聞いてしまった、
という感じに青ざめる。

「なんて冗談だけど」
ふっと笑うと、青柳の表情は安堵し、
ブラックジョークに怒ることもなく笑ってくれた。

「あはは。赤石って面白すぎる」
「俺はそういうつもりないけどよく言われる。
 中小企業の、ごく普通の社員だよ。青柳は?」

青柳は、笑いすぎて泣いている。
目に溜まった涙を擦りながら、小さく首を振った。
「僕、来月末にニート決定なんだ」

話しを聞いたら、今流行っている派遣切りだとか。
5年間、仕事の成績は好調で、
派遣と言えどもしっかりと実績も作ったらしいが、
切られる時はあっさりだ、と苦笑いした青柳。

雇用の安定、というものの難しさを考えさせられる。
ニート決定だという青柳は、それなのに楽しそうだった。
いや、ポジティブでいるのはいいことだ。

「だったら素うどん頼めばよかった」
「あはは。それじゃお礼にならないよ」
また青柳が爆笑した。

そんなに面白い台詞だったかな、
と思ながらも青柳が楽しければ、それでいいか。
青柳の眩しい笑顔も、もちろん目に焼き付けた。

定食を堪能し、腹一杯になって食休みする。
今日は珍しく天候が穏やかで、いい天気だった。
雪山、というのは天候が変化しやすいから、
晴天でもいきなり吹雪いたりする。
だから、いい天気なのは、滑るこちらにはとっては嬉しい。

休み終えてから再び滑りにいく。
今度は中級コースへ青柳と一緒にいった。
フォームは正確で、ターンも丁寧な、青柳の滑走。
マジメそうな性格がボードに反映されているようだった。

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