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  [ その雪景色窓辺より 13 ]
2010-09-18(Sat) 14:50:00
「あはは。もうだめだ笑い堪えられないや。
 こんなとこで会えるなんて思わなかったよ、赤石」
笑顔と、優しい声は、やはりカズ本人であった。
だけど、俺のほうは笑えなかった。
連絡がつかなくなった経緯からして、
嫌われたんだろうと思っていたからだ。

「上も下も、サイズはMでいいですか?」
「‥もしかして赤石怒ってるよね」

俺は、笑顔が消えたカズに上着を突きつけた。
たぶん俺は怒っている。
大人らしいスマートな対応をすればいいのに、
胸のむかむかがどうしても取れない。

すると、それを受け取ったカズが頭を下げた。
「連絡しなくて本当にごめん!」

突然の大声の謝罪に、俺はびっくりして固まった。
なぜカズが謝っているのかが判らない。

あんなことをした俺のこと嫌いになったはずだし、
だからカズは音信不通になったはずで、
でも、こんなところで偶然再会なんかしちゃって、
気まずくなって謝ってきたのだろう、
って、あれ、俺のこの考えが違うのか。

頭であれこれ考えながら、制服のズボンを用意する。
すると、ゆったり口調のカズらしくない早口で、
俺にこう言ってきた。

「あの日の帰りに、休憩したSAで携帯落として、
 しかもそれを僕は車で踏んじゃったんだ。
 ナンバーの地域、同じだったの覚えてたから、
 帰ってきてから赤石の乗用車を探してたんだけど、
 どうしても見つからなかった!だからごめん!」

カズは、自分の家の住所と、
それから俺の近所のスーパーの支店名を告げると、
ここまでは探したんだ、と言った。

確かにナンバーは同じだったけど、
範囲広すぎるのに車探すなんて無謀すぎるだろ。
俺と同じ車、どんだけ走っていると思ってるんだ。

「俺の車、わざわざ探したの?」
「当たり前だよ、そんなの。
 チェーン借りたままだから返したかったし、
 また会おうよって言ったじゃないか!」

カズの勢いに押され、腕の力が抜け、
俺は思わずズボンを床に落とした。
言い切ったとばかりに肩で息をしながら、
カズはそれを拾い上げると、困った表情で笑った。

「信じてもらえるとは思っていないよ。
 さすがに今回のミスには、我ながら呆れたし。
 だけど、どうしても赤石のことが気掛かりだったから、
 こうして会えて嬉しかった」
カズは、ズボンを抱き締めながら俺に言った。

俺の家は、賃貸マンションの4階にある。
マンションの地下にある駐車場とも契約しているから、 
どんなに探したって見つかるはずがない。

ああ、やっぱり、ドジだけどマジメなカズだ。
再会を祝福し、すぐにでも抱き締めたかったが、
さすがにそういう仲ではないからやめた。
そういう仲になりたいっていう思いはあるけどな。

「で、ここでこれを着替えればいいの?」
「ああ、うん。ごめん。俺ちょっと疑ってた」
「やめてよ。謝るのは僕なんだから」
着替えたカズはいつものように微笑んだ。

「会えて良かった。それでダメ?」
「うん、ダメじゃない」
俺達はこうして再会し、他人から同僚となった。

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