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BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ その雪景色窓辺より 15 ]
2010-09-20(Mon) 06:10:42
扉を開けて中に入ると、3畳のキッチンが手前にあり、
左側にトイレと風呂、それから奥に2間が並んでいた。
あんまりどころかどの部屋もキレイに片付けられている。
「キレイな部屋じゃん」
「あはは、そんなことないよ。
 インスタンドでいいなら、コーヒー飲まない?」
「うん、もらう」

すぐの6畳間にはテーブルやテレビや本棚があった。
ここと奥の部屋の仕切りは外され、
奥にセミダブルのベッドとクローゼットが見える。

カーテンの向こうには小さなベランダがあり、
防犯用の目隠しか、レッドロビンが植えられていた。
そして、レッドロビンの奥に駐車場を眺めることができる。

なるほど、こういう作りになっているのか、
と思っているとカズがカップを持ってきてくれた。
「赤石は、ブラックでいいんだよね」

ペンションでのコーヒーで覚えていたんだろう。
カズはミルクだけ、というのを俺も覚えてる。

礼を言い、コーヒーに口をつけると、
インスタント以上にとても美味しかった。
カズが淹れてくれるとやっぱり違うな、なんて。

「少し前に、みんなで集まってここで飲んだんだ。
 だから、部屋はいつもより片付いてるんだよ」
「みんなって、友達?」
「うん。友達だけじゃなくて姉弟もたまにくるよ。
 赤石は?そういうのない?」

弟妹は、あんまり家には遊びにこない。
友達と飲んだり騒ぐなら居酒屋か、
しっとり過ごしたい時ならバーに行くくらいだ。

「そんなこと言っておいて、
 本当はキャバクラとか好きそうだよね赤石」
「ああ、それよく言われる。そんな風に見える?
 俺、これでも硬派のつもりだけど」
言ってカズと笑った。 

ふと、本棚を見るとバイク雑誌が並んでいた。
そう言えば、さっきビクスク動かしていたっけ。
それから、なんたら殺人とかいうミステリ小説とか、
なぜか少女マンガも数冊、そこにあった。
俺にとっては趣向が読めないカズが、よっぽどミステリだ。

「バイク好きなんだ?」
「親にバイクだけはダメだって言われてたけどね、
 こっそり免許とったくらい大好きなんだ。
 それで事後報告したら、父さんと姉さんに殴られたよ」

あはは、とカズは他人事のように大笑いした。
カズにとっては、それは笑い話らしい。
それにしても、カズでも殴られるのかとそっちに驚いた。

「海とか山とか、ふらっとツーリングにいったりするんだ。
 バイクって風切るのが気持ちいいよ」
「そっか。そういう話聞くと中免取りたくなるな」

バイクの免許取るのに、時間も金銭面も充分だし、
MTかAT、中古だったらすぐにでも購入もできそうだ。
いや、カズとお揃いで、ビクスクでもいい。
でもって、ツーリング行けたら楽しいだろうな。
免許を持ってないくせに妄想は膨らむばかりだった。

バイクの本を取って、うっとり眺めていると、
カズが、にこやかな笑みで訊ねてきた。
「それなら、僕とまずはツーリング行ってみる?」

ページをめくる手がぴたりと止まった。
ぎぎぎ、と油の切れたブリキのロボットのように首を回し、
カズを凝視する。

あの、今、なんとおっしゃいましたか。

「チェーンをずっと借りたままだったし、
 こっちのハプニングで連絡も途絶えちゃったから、
 そのお詫びも兼ねて、どう?」
「行く」

即答だった。

今月はムリだから来月のシフトを調整して、
ノブさんに休みを合わせてもらい、
俺達は一泊で、カズのバイクで海へ繰り出すことにした。

宿はカズがよく使うところで、大浴場も部屋風呂も、
どちらも露天であり海沿いの景色がまた最高らしい。

部屋風呂、というニュアンスからして、
これまでは元恋人といっていた場所なんだろう、と思う。
そこに俺を誘うってことはカズは吹っ切れたのか、
気にはなったけど訊ねることはしなかった。

僕が全額を持つ、とカズはその一点張りだったが、
それだと金が気になって俺が楽しめない。
そう言うと、それなら交通費は絶対持つからね、
ということで、カズと折り合いがついた。
雨だったらバイクではなく車で、ということも決めておく。

カズと音信普通になったこの2ヶ月間の、
どんよりと沈みこんだ気分がどこかへ飛んでいった。
踏めないスキップすら踏みたくなったが、
それはまあアパートに迷惑だからやめておこう。

そして、カズはベッドで、俺は用意してもらった布団に寝て、
4時間ばかりの仮眠をぐっすりとった。

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