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  [ その雪景色窓辺より 16 ]
2010-09-21(Tue) 05:20:22
5月の初夏。
晴天の今日、家にカズが迎えにきた。
そう、ツーリング当日である。
カズのビクスクにはバックレストがついており、
快適で、どっしりと寄りかかれる。
カーブの度にカズに抱きつけるかも、
というような邪な期待は瞬時に消えてしまったが、
安全でいえばバックレストは心強い。

フルフェイスのヘルメットには、
高性能そうなインカムが装備されていた。
おいおいこれは誰と喋るためにつけたんだよ、
と嫉妬し、さりげなくカズに訊ねてしまった。

「基本バイクは趣味だから、使うとか使わないは別として、
 僕こういうのつけるのが好きなんだよね」
とカズは笑った。

オーディオのついているビクスクで、
洋楽を小さくかけながら国道を走っていく。

カズは、そんなに遠くまで行かないなら、
高速ではなく休憩しながら下道をいくらしい。
確かに、そのほうが風も景色も楽しめる。

次第に、潮の匂いがして海が見えてきた。
海なんてしばらく目にしておらず、その広大さに見入った。
真夏の海もいいけど5月の海もいいもんだ。

港近くで食堂で昼食をとる。
新鮮な海の幸の食材に、俺とカズは舌鼓を打った。

それから、景色のいいところやコンビニで休憩しつつ、
バイクに乗ってのんびり走っていき、
夕方前、予約してある宿へと到着したのだった。

「バイクの運転疲れただろ?ありがとな」
「僕バイクだけは疲れないんだよね」

メットを取ったカズの顔に、疲れが全く見えない。
それどころか、肌がつやつやしているような気がした。

宿にはしみじみとした趣があり、
それが却って上品で穴場っぽい感じがする。
部屋へ案内され、まずはカズに先に部屋風呂へ入ってもらい、
湯上りのカズの浴衣姿を、しっかり目に焼きつけながら、
交代で俺が風呂へ入る。

温泉が、心も体も、リフレッシュしてくれた。
ビクスクに乗ってカズと話していただけ、
それだけなのに慣れていないとこんなに疲れるもんなのか、
と全身で痛感する。

檜のいい香りを味わいながら、浴衣を着て部屋に戻ると、
従業員の女性がせっせと部屋食を準備していた。
テーブルに乗り切らないほどおかずの皿が並んでいる。

「おわ、すごいなこれ」
雪山のペンションの料理もいつもすごいけど、
これも引けに劣らない。

「料理長さんがほとんど今朝採ってきたんだって。
 この海草とか、魚とか貝とかも。すごいよね」
そういう説明を女性がしたのか、カズが教えてくれた。

女性は俺達に会釈し、静かに部屋を後にする。
それを見送って、俺とカズは座布団に腰をおろした。

「赤石いなかったから冷酒頼んじゃった」
「いいよ、酒なら何でも」

テーブルの隅に徳利が4本ほど並んでいる。
カズが先に俺へ注ごうとして、それを奪った。

「俺よりも青柳が先だって」
「どうして?」
「バイクの運転してくれた」

いいのに、という表情で笑うカズに冷酒を注ぐ。
次にカズに注いでもらい、猪口を上げて一気に飲んだ。
じわり、と体の全てに冷酒が染み渡っていく。

食事を楽しみながら冷酒を空けていき、
気付くともう9時になっていた。
従業員の女性が、テーブルを片し布団を引いていった。

「やべ、飲みすぎた」
柔らかい布団に転がると、
カズも俺の真似して布団に横になった。

カズがそのまま俺の布団へ転がってくると、
いいことでも思いつたかのようににやりと笑い、
どしんと体当たりしてきた。
しかも、酔っているせいか容赦なく当たってきやがった。

「って!この!」
仕返しにカズに突進すると、ひょいと避けられた。

なかなかいい反射神経してるでしょ、
とでも言いたげな憎らしい顔をして笑っているカズ。
ぐぬぬ、確かにいい反射神経を持っているぜ。

「さてと、またちょっとお風呂入ってこようかな」
襟を直しながらカズが立ち上がると、
その足が浴衣を踏み、ぐらりとふらついた。

危ないと注意する間もなく、カズが俺に倒れてきて、
手を出してその体を抱きとめる。

どしん、と床が揺れた。

布団にいたままキャッチできたのが幸運だった。
そのせいで、体のどこも痛くない。
とはいえ、カズの腹が俺の顔に乗っていて、
上手くキャッチできず格好悪かった。

「ごめん!大丈夫?」
不安そうな表情で、覆い被さって俺を見るカズに、
にかっと笑ってみせた。
「全然平気」

すると、ほっとした顔のカズが近づいてきて、
少し触るくらいに唇を重ねてきた。
「酔った勢い、ってことにしていいから」

それから、顔を見せないようにして立ち上がると、
何事もなかったような表情のカズが、
2月と同じように風呂へ誘ってきたのだった。

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