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  [ その雪景色窓辺より 17(R18) ]
2010-09-23(Thu) 05:50:33
満天の星空が、風呂に体を沈める俺達の成り行きを、
じっと見ているような気がする。
そんな、申し分のない景色を目の当たりしつつ、
頭ではさっきのキスのことばかり考えていた。
カズは、まさかとは思うけど誘ってるのだろうか。
酔った勢い、とキスの後に言っていた。

キスも、少しその先も、カズとは経験済みだけど、
名前で呼んでいたのに苗字に戻したのはカズであり、
ノーカウントにされた、と俺はそう思ってる。

何を求められているのか俺は判らず、
何か求めていきているカズを目で追っていると、
カズが視線に気付いて、にこりと笑いかけてきた。

「この宿どう?なかなかいいでしょ?」
「うん、そうだな。ここには元上司と一緒にきてた?」
「遥か昔ね。基本はでも友達とだよ」
苦笑いしながら回答するカズ。

過去の恋人へ嫉妬、だろうか。
俺らしくもなくカズにいじわるを言いたくなった。

「元上司とは何回きた?」
「もう勘弁して。あの人とはとっくに終わったから。
 それに、携帯を壊してからは番号を教えてないしね」

あはは、とカズは苦笑いしたまま回答したが、
俺のいじわるはまだ続く。

「そうなんだ。でもどっかで番号調べてるかもよ?」
「まさか、たぶんそれはないよ。
 それにしても随分つっかかってくるね赤石」

カズは汗を拭いながら淵に座った。
ちなみに、カズの腰にはタオルが巻かれてある。
つられて俺も巻いたけど、たぶんカズは警戒してるのだろう。
雪山のペンションの風呂では、そんなことなかったし。

でも、タオルしてまで用心するくらいなら、
俺のことを安易に風呂へ誘うなよな、と思う。

カズが何を考えているのか全く読めない。
まあテレパシストでもあるまいし、
人の考えなんてそうそう読み取れやしないか。

俺に笑いかけてカズは話を変えた。
「それよりバイクどうだった?」
「よかったよ。バックレストも。
 あれあったほうがいいな。快適だし安定するし。
 まあ、そもそも運転自体安全だったけど」

俺も風呂を出て、カズの向かいに座り、
熱を帯びた体を冷やした。
汗も出て、だいぶアルコールも抜けてきたっぽい。

「そう言ってもらえると嬉しいな。
 だけど、僕、3年前にバイクで事故ったことあるよ」
「マジで?」

ウインカーを上げずに車線変更してきた車とぶつかって、
カズはバイクごと転倒してしまったらしい。
ムチウチや骨折はなかったが、打撲と内出血で、
完治するのに3ヶ月かかったとのこと。

「ほらこれ、傷跡。たぶんもう消えないと思うんだよね」
と、カズに見せられた、左膝。

傷跡は、周り肌とは別の色だった。
聞いただけでも痛そうなのに、痛そうな傷跡を見せられて、
思わずぞくっと寒くなった。

カズに近寄って、触りながら訊ねる。
「痛い?」
「全然平気」
にかっと笑って答えるカズ。

スノボの時も思ったけど、カズって本当にドジだ。
バイクの事故ではカズに責任はないけど、
一歩違っていたら俺達は、こうして会えていない。

傷跡を触るカズは事故を懐かしみながら、
「電車で座っても左膝を曲げられなくてね、
 みんなに睨まれながら座ってたよ」
と言いながら笑っていた。

笑顔が、なんだか妙に甘ったるくて。

俺は、気付いたら左膝にキスしていた。

「‥っ」
びくっと震える、左膝。
そこに舌を這わせて、ぺろりと舐める。

「痛い?」
「全然‥平気‥」
先程とは異なる状況で、全く同じ会話を繰り返す俺達。

もう1度舐めて、真っ赤になったカズに顔を近づける。
「ヒロって呼んでって覚えてる、カズ?」
「‥うん」
カズは俯きながら答えた。

どんな顔しているかを見たくて、カズの顎に手を添える。
カズは数ミリだけ、思い切ったように顔を上げた。
怒られるとでも思ってるような、強張った表情だった。

「どうして呼び方を戻したの?」
「‥別にただ‥何となく」
「本当?怒ってないから言って?」

俺はカズの本音を聞きたかった。
イヤならイヤでいい。
ノーカウントでも構わない。

でも、俺はカズのこと好きだから。

好きだからどうしてなのかを聞きたかった。

返答次第で、俺だって諦めがつく。

「呼ばれるのに慣れてなくて恥ずかしかった。
 本当に、ただそれだけなんだ」
カズって呼ぶのは、身内とか身近な人物くらい、
とカズは付け加えた。

俺がカズって呼ぶのはまだ早いってことらしい。
身近というレベルになるまでは苗字でいくしかないか、
と思いながら頬をぽりぽりと掻いた、その時だった。

「でも、ごめん。いきなり変わったら驚くよね。
 僕ヒロって呼ぶから、ヒロも好きに呼んでよ」

カズの俺を呼ぶ声が嬉しくて、笑ってカズを見る。
俺の笑顔を見て、顔を上げたカズは頬を緩めた。

そのまま、俺達は顔を近づけて自然に唇を重ねた。

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