BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ その雪景色窓辺より 30 ]
2010-10-06(Wed) 04:20:45
夜を迎えてようやく体が戻りつつあった。
あんなのが俺に挿ってたんだな、と改めて考えて、
なんとも複雑な気持ちになる。
カズに夜きてほしいと言われ、とりあえず、
晩ごはん軽めに食べてから、カズの家へ向かった。
ここから3つ先の駅にカズのアパートがあり、
シャツにジーンズにサンダル、それと財布と携帯のみ、
というラフな格好でアパートを目指す。

先に駐車場を覗き、カズが家にいるかを確かめると、
明かりのついた部屋から大声が聞こえてきた。

「バカ!カズ君のバカ!」
女の声が、バカバカと連呼している。
何だと思い、車に隠れて覗き見すると、
カズに抱き付いている女の姿があった。

「もう僕関係ないよ」
女の肩を持ってそっと体を引き剥がすカズ。
いつも笑っているカズと違い、
表情は怖いほどの冷静を保っていた。

すると、ウェーブのロングヘアを振り乱して女は叫んだ。
「何でそういういじわる言うの?
 私妊娠してるのに!3ヶ月目なのに!」

俺は思わず息を飲んだ。

カズは女を困った顔で見ている。
肯定はしないけど、反論もしていない。

あの女って、もしかしたら元上司じゃないのか。
カズが退職して3ヶ月になるし、
カズと呼ぶのは身近な人物くらいだと言っていた。

そう考えると、早朝の電話やこの会話の辻褄が、
合うような気がしてくる。

「だったら早く帰りなよ。旦那さん自宅でしょ」
「カズ君冷たい。どうして私を追い払おうとするの。
 前はもっと優しかった!」
「前は前だし、今は今だよ」

すると、カズの胸に女が顔を埋めた。
「やだやだ、やだ、戻らない私!ここにいる!」
「‥みっちゃん」

そのまま女は泣きじゃくった。
カズはまるで子供をあやすように、女の頭を撫で、
遠くを見ながらふうっと溜め息をついた。

見ていられなくなった俺は、そっと踵を返した。

駅に着き、ホームでカズにメールする。
体調が悪いから今日は寝てる、と。

これでいいんだ、と心で何度も呟く。
たぶん、これでカズが元の位置に戻るはずだ。
これまで俺なんかと寝ていたのが、
ストレートなカズにとってはおかしいことだったんだ。

不意に、涙が出た。
ホームの隅の柱に寄りかかり少し鼻を啜る。

それにしても、好きだって言わなくて良かった。
言っていたら会社で会うのもきつい。
このままなら、ぎりぎり同僚でいられる。

「‥さて、と」
ぽっかりと穴の空いた心を埋めるために、
このままグリーンアイランドへ行くことにした。

次話へ 前話へ
BL小説その雪景色窓辺より | TB:× | CM : 0
作者の独り言 8HOMEその雪景色窓辺より 31

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi