BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 傷痕は誰が為の 10 ]
2010-11-05(Fri) 03:55:37
翌日、仲村君に会うためにヒロと和賀高の前にいた。
「昨日の今日で、休んでると思うよ」
「いや、こんな状況だからこそたぶん登校してる」
たぶんと言いつつ、ヒロは自信たっぷりに断言すると、
事件が起きればどこからともなく生徒に広まるし、
それで欠席なんかしたら目立つから、とヒロは付け足した。

言われてみれば確かに、とヒロの言葉に感心しながら、
門から少しばかり離れて待っていると、
ようやく下校の仲村君と出会うことができた。

1人歩いていた仲村君は、僕達を見るなり瞳孔を広げる。
そして、逃げるどころかこちらに近づいてきた。
吊り目を更に吊り上げ、僕達をかなり警戒している。

ヒロがその肩を軽く叩いた。
「これからお茶でもしようぜ」

今時のナンパでも言わないような台詞に、
仲村君は同意し、駅近くのファミレスへと入店した。
ヒロはマロンパフェ、僕はあんみつとお茶、
オーソドックスに仲村君はコーヒーを注文する。

運ばれてきたものがテーブルにずらりと並ぶと、
仲村君が、呆れたように呟いた。
「あんたら、本当に大人?」

パフェに飛びついてヒロが答える。
「コンビニでエロ本買えるから一応そうみたいだな。
 だけど、無駄に歳だけ取った子供かも」
「僕も、大人なのは年齢だけかな」
「それにさ、ここのパフェ美味いんだよな。
 秋なら栗が旬だし。カズ一口食えば?」

ヒロに借りたスプーンでマロンクリームを掬った。
「本当だ、すごく美味しいね」

僕達のやりとりに苛立ったらしい仲村君が、
コーヒーカップを勢いよくソーサーに乗せる。
かちゃん、と陶器同士の突き当たる音が響いた。
「で、何?」

ヒロはスプーンの動きを止めることなく、
仲村君をちらりと見上げる。
そのヒロは、パフェ下にあるフレークを食べていた。

「何って何だよ?」
「だから、俺をここに呼んで何したいわけ?
 パフェの美味さを実況するため、じゃないだろ」
「ん、まあな。ちょっと話してみたかったから呼んだ」
「俺はあんたらに話すことなんかない」

ヒロは急に怪我した部分を押さえて、
顔を歪めながらパフェスプーン床へ落とした。
びくっと震えて青くなる、仲村君。

「いてて、スプーン持てないくらい痛い」
仲村君はヒロの台詞で、びびって損したと言うように、
目を細めながら溜め息をついた。
なぜなら、マロンパフェの器は空になっていたからだ。

「ちぇ。それで何を話すって?」
「何がしたくて学校に入ったんだよ?」
指に跳ねた髪を絡めて、無言になった仲村君は、
ヒロから目を逸らすと、窓の外をじっと眺め始めた。
話す気は無い、ということだ。

仲村君の態度に、ヒロは怒るどころか笑った。
「俺も昔、同じように学校に入ったことあるぜ」

突然の衝撃的な暴露に、
「え?何で?」
と、僕と仲村君の声が、ぴったりとハモる。
僕達の同調に、ヒロはにやりとした。

「昔は、今みたいなセンサーなんか置かれてなくてさ、
 常駐してるおっさんが警備してたんだけど、
 おっさんに見つからないように入れるのか、てな。
 カズは?したことない?」
「そんなのしたことないし、やろうとも思わなかったよ。
 高校時代は弓道一筋で、帰ったら疲れて寝てたし」
「ああ、前にそんなこと言ってたっけ」

ここで、再びカップとソーサーのぶつかる音がした。
拗ねたように唇を尖らせながら、
仲村君が僕とヒロに横槍を入れたのだ。
ヒロはその顔を見つめながら、イスに深く座り直した。

「何をヤケになってるか知らんけどさ、
 学校なんかに侵入したって面白くないだろ」
「あんたになんか言われたくない」
「あんたじゃない。赤石紘人だ」

疲れきった顔になる、仲村君。
そんな仲村君に微笑みながら、ヒロは突然言った。
「好きな人いるだろ、同性の」

ぴく、と仲村君の眉が動く。

仲村君は、これまで以上にヒロを警戒していた。

僕も、口にこそしなかったけど気がついていた。
どうしてか、と訊ねられても明確な返答は返せないけど、
何となくというか同じような匂いがするというか、
シックスセンスが働いたとしか言いようがない。

だけど、これがおかしなことに、ヒロにはなかった。
常にシックスセンスが動くわけでもないらしく、
それでもヒロを好きになってしまった僕は、
性癖を探るようなことを何度も続けてしまったけど。

「判るんだよ俺は。この意味判るか?」
仲村君は、真顔のまま返答しない。
ヒロはそれを見越していたような笑顔だった。

「俺もそうだから判るって言ってんだよ。
 同じだから判る。ただそれだけだ」
仲村君はヒロの言葉に、険しい顔をした。
半開きだった口元が、への字に結ばれる。

ようやくヒロの動きが見えてきた。
仲村君の、どこにも吐けないその苦しみを、
ヒロはきっと受け止めようとしている。

「で、誰?」
「え?」
「好きな人って誰だよ?
 聞いても判らないけど言うだけ言ってみな」

仲村君の心中で、ヒロへの信頼と警戒が格闘していた。
顔を上げ、名を言おうとして口を開いてみるも、
やはり口を結んで、言いたい気持ちを堪える、を繰り返す。

「じゃあ、俺から言おうか」
店員にコーヒーを注文してから、ヒロは頬杖をついた。

次話へ 前話へ

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もしも面白かったら一票お願いしますm(_ _;)m
BL小説傷痕は誰が為の | TB:× | CM : 0
傷痕は誰が為の 9HOME傷痕は誰が為の 11

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi