BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 傷痕は誰が為の 11 ]
2010-11-07(Sun) 05:20:22
「青柳一葉」
ヒロが僕を見て言うと、仲村君は、
目を大きくさせてぽかんと口を開けた。
薄々は気付いていたであろう僕達の関係。
改めてそれを聞かされて、
仲村君は、まじまじと僕とヒロを見つめる。

どうやら、こちらから打ち明けることで、
仲村君の警戒心が解れるのを待つらしい。
笑っているヒロを見ると、小さく頷かれた。
「はい、次はカズの番な」

ヒロに頷き返して僕は言った。
「赤石紘人」

言うとテーブルの下で、ヒロが僕の足を撫でた。
幸せがじんわりと伝わってきて、
えへへを頬を赤らめて頬を綻ばせる。

仲村君は、ウソか誠かを確かめるように、
僕達のことを凝視していた。
それを見たヒロが、コーヒーを啜ってから言う。
「やらせじゃないしウソついてないからな。
 俺達、11月になったら同棲するし」

それは事実だった。
隣に座る僕が、ヒロの言ったことに頷くと、
仲村君が鋭い視線で、睨むようにこちらを見た。

「本当?」
「うん。駐車場と今住むアパートとの契約の関係で、
 来月はちょっと難しかったから再来月に‥」
「いや、そっちじゃなくて」
「あ、えと、ヒロの言ってることに偽りはないよ」

真顔の仲村君は、溜め息をついてコーヒーを飲み干した。
カップを静かに置きながら、悔しそうな顔をする。

「‥なんで俺に言えるの?」
「だから同じだって言っただろ」

僕達は恐らく信頼を得られた。
見えるならば簡単に信じられるのに、信頼とか愛情とか、
見えないものを信じるのは難しいことだ。
ヒロが、やっとここまできたか、という顔になる。

「じゃあ、次は仲村の番な」
にかっと笑うヒロ。
仲村君は、それに負けたように呟いた。

「‥波多野夏樹」
「へえ、いい名前じゃん。どこで知り合った?
 ちなみに俺達は同じ職場なんだけどさ」
「そっちのことはもういいって。
 バイト先で知り合った、学校の後輩」

ここで、ヒロが唸り声を上げた。
顎を撫でながら仲村君の顔を見つめる。
それはもう、こちらが嫉妬するほどに。

「あれ、どっかで見たことある顔だな。
 バイトって、もしかして文具店じゃないか?」
「え、うん‥そうだけど‥」
「やっぱり。豪のとこの会社で働いてるのか。
 営業の佐伯、俺のダチなんだけど知ってる?」
「知ってる。会えばよく喋るから」

仲村君の警戒心が、ますます解けてきた。
証拠に少しばかり口元が緩んでいる。
あどけなさが残っている、少年らしい笑顔に、
つられて僕達も笑顔になった。

それから、しばらく文具店の話題になった。
僕達の会社はその文具店も警備している、とか、
佐伯さんの仕事っぷりはどうだ、とか、
他愛ない内容だけど、僕達は楽しく雑談した。
そして、波多野君の失敗談が終わった時だった。

「どんなとこ好きになった?」
「そんなの判らない。いつの間にか好きだった。
 最初はこんなのおかしいって否定してたけど、
 でも、そう思えば思うほど‥俺‥」
「好きになっていくんだよな」

言葉を詰まらせた仲村君に言ったヒロ。
仲村君は、俯きながら頷いた。

同性を好きになった自分を責めている、仲村君。
でもそれは、おかしくも何でもないと知ってほしい。
こちらから助言するのは簡単だけれども、
結局は仲村君が、自分を認めなければ意味が無い。

仲村君の肩を叩いたヒロが右手を差し出す。
「何?」
「仲間だから握手」

1分間、ヒロの手を見つめて、
躊躇いつつ仲村君はヒロと握手をした。
僕からも仲村君に握手を求める。
その温かい手より、仲村君の中にある本来の優しさが、
じんわりと伝わってきた。

それを見たヒロが拗ねた。
「ちょ、カズまで握手しなくても」
「ヤキモチ妬かないでよ、ヒロ」
「そういうのじゃないけど、だって‥まあいいけど‥」

ヒロが唇を尖らせ、面白くなさそうな表情をする。
そんな姿に僕と仲村君は目を合わせて、そして笑った。

「こういうのが恋人だと大変そうだね」
「でも、楽しいし幸せだよ」
そう言うと、仲村君は赤面し、羨ましそうに顔をした。

次話へ 前話へ

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もしも面白かったら一票お願いしますm(_ _;)m
BL小説傷痕は誰が為の | TB:× | CM : 1
傷痕は誰が為の 10HOME傷痕は誰が為の 12(完)

copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi