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  [ 星が刻んだ未来さえ 16 ]
2010-11-30(Tue) 07:55:53
シャワーを浴び終わって服を着ていると、
満さんにいきなりこう訊ねられた。
「マイト君はパスタ好きですか?」
好きでもないし嫌いでもない。
食べる頻度で言えば、多くもないし少なくもない。
ただ、パスタの中ではぺペロンチーノが好きで、
家ではそればかり作っている。

「それなりに好きです」
「それならこの店知っています?」
満さんが言ったのは、イタリア語みたいだった。
だけど、俺はそれを耳にしたことがない。

「すみません知らないです」
「そうですか。テレビや雑誌にも掲載されて、
 最近ではメディアでも放送されているのですが、
 やはりまだまだのようですね」

シャツに腕を通しながら唇を尖らせ、満さんが唸る。
がっかりした表情すらもまた格好いい。
何をやってもぬかりなさそうな人なのに、
こうやって気落ちすることもあるなんて意外だった。

すると満さんは、バッグから小さなケースを出した。
「これ、よかったら貰って下さい」

そこには、名刺が一枚。
このバイトをして初めて貰うものだった。

「いいんですか?」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます」

楠満というのが本名だった。
名前の上部に、企業名と、満さんの役職が記されている。
スーパーバイザーと店長を兼用しているらしく、
いかにも多忙そうな役職に、こっちが疲れた顔になった。

「忙しそうな役職に就いてますね」
「店にいられる時間は少ないですが、
 忙しいよりも楽しいですよ」

楽しいと言えることが羨ましい。
俺はこのバイトを続けている限り、それは絶対にない。

「サービスしますから、いつか食べにきて下さい」
「はい。そのうち行きます」

店舗の住所は、セレブが出掛けるような街中にあった。
これまでにそこの駅に降りたことすらないが、
相手の機嫌をとるような無難な返事をしておく。

満さんとホテルを出ると、ホテル脇の路地に連れられた。
街灯が薄暗く、満さんさえもはっきりと見えない。
こんなとこへ俺を連れ込んだりして、満さんは何するのか。
警戒、ではないけど緊張はしていた。

「タクシー代にして下さい」
と言われて握らされたのは札だった。

「いや、いいです。バイト代ありますから」
俺は、それを満さんに返した。
ケチなのは困るけど、気前がよすぎるのは戸惑う。

札を返した手を握られ、キスをされた。
ぺろりと唇を舐められて、思わず吐息が漏れる。
「いいんです。もしお釣りが出たら、
 それで食べにきて下さい」

これを返しても、この人は頑として受け取らない。
それを察して諦めた俺は、満さんに笑った。

「‥はい。じゃあ頂きます」
言うと満さんも笑って、静かに去った。

俺は、真っ赤になった頬を擦りながら店に戻り、
言われた通りタクシーを拾って帰ることにした。

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