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  [ 星が刻んだ未来さえ 50 ]
2011-01-30(Sun) 04:35:42
ここからは、菅生さんの怯えた表情だけが見える。
満さんはどんな顔しているんだろう。
それを確かめる間もなく、満さんは菅生さんを離した。
まるで、ごみでも投げ捨てるように。
「私の名は、楠満。言いたいこと判りますね?
 今後は一切、彼には近づかないと誓って下さい」
言った後に、何やらぽつりと呟いていた満さん。
呟いたらしいことが判っただけで、
どんなことを言ったのかまでは聞こえなかった。

満さんが注射器を返すと、菅生さんは慄然とした。
俺から見ても判るほど、がたがたと体を震わせながら、
受け取った菅生さんが僅か頷いた。
そして顔面蒼白のまま、走り去る。

姿がようやく見えなくなり、
ほっとしたのか俺は腰が抜けそうになった。
それを察した満さんが、俺の肩を叩く。

「もう大丈夫です」
その笑顔に安心して、俺は礼のために頭を下げる。

「‥ありがとうございます」
「いいえ、とんでもない。いいタイミングでした」
「どうして満さんはここに来たんですか?」

だって、コンビニで待ってるって言ったのに。
俺は満さんをできれば巻き込みたくなかったのに。

満さんは照れて、顎を掻く。
「待ちきれなくて迎えにきたんです」

どうやら、それが功を奏したらしい。
それにしても、待ちきれなくて迎えにくるなんて、
これじゃあ本当に恋人みたいだ。

「俺と客との問題に巻き込んで、すみませんでした」
「とんでもない。こちらこそでしゃばってすみません」

俺と満さんはぺこぺこと頭を下げる。
やがて、俺はこう訊ねた。

「ところで、カンツリって何ですか?」
「カンフルツリー製薬の略語というやつです」

誰でもよく目にする、大手製薬会社だ。
菅生さんのスーツのピンバッチがその会社のものだった、
と満さんが言った。
でも、普通、そんなもの見たくらいで判るだろうか。

「詳しいんですね満さん」
「私の兄が、そこの社長ですから」

俺は、きょとんとした。

言葉の意味が、きちんと理解できなかった。

「え?社長?満さんのお兄さんが?」
「次男は薬剤師、と話をしたのを覚えていますか?
 カンフルツリーとは楠木という意味なんですよ」

社長を務めるわりにネーミングセンスが皆無の兄なんです、
と笑っている満さん。
次男は薬剤師、と話をされたのは覚えているけど、
こんな偶然があってもいいのかと唖然とした。

「とりあえず、これで大丈夫でしょう。
 さっきの人が近づくことは、もうありません」
「はい」
「それでは家へ行きましょうか」

通りでタクシーを拾い、満さんのマンションに向かった。

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