BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 星が刻んだ未来さえ 59 ]
2011-02-16(Wed) 04:40:22
菅生さんが正門にいた。
いつものスーツ姿で立っていた。
「やあ、マイト君」
疲れ切ったような顔で笑いかけられる。

「‥どうも」
口の中が乾き、ちゃんと返事ができない。

菅生さんがここにいるのは偶然なのか。
それとも計画的なのか。

計画的だとしたら可能性は、ただ1つだけ。
バイト中に持ち歩いていた、唯一の私物の財布を、
俺がシャワーの時にでもきっと探ったんだろう。

財布には学生証がある。
さすがに住所の記載はないけど、
それでも、本名と大学名と学部が、
そこにしっかりと刻まれているのは確かだ。

満さんに関わるなと言われて頷いたのに、
どうしてここへきたんだろう。
菅生さんのことを警戒しているんだろう、
どくんどくんと胸の音が耳についてうるさい。
つっと冷や汗も流れる。

すると、菅生さんが微笑んだ。
「お茶でもしながら話をしたいんだ。
 今少しだけでいいから時間をもらえないかい?」

ここで、ノーなんて言った日には、
またおかしな薬を飲まされかねない。
いや、それで済むなら良いほうか。
注射器やら凶器やら、カバンから出されて、
こんなところで振り回されでもしたら、
事件になって俺はもう大学にすら居られない。

警戒したままそれを了承し、
ここから離れたカフェへと黙ったままむかう。
菅生さんが、俺にメニューを見せてきた。

「マイト君は何を飲むかい?」
「‥ブレンドで」
「それなら僕も同じのにしよう」

菅生さんが店員へ、ブレンド2つをオーダーする。
メニューを置いた手が、スーツの胸ポケットに入った。

そこから出されるのは薬か。

それとも注射器なのか。

緊張しながら注目していると、
右手にあったのはタバコと携帯だった。
俺はほっとして息をつく。

「吸ってもいいかい?」
「‥どうぞ」

言うとタバコを銜えて、
煙を燻らせながらメールを打ち始めた、菅生さん。
これまでこの人からはタバコの匂いなんて、
したことなかった。

「タバコ吸うんですね」
「ん?ああ、止めていたけどまた始めたのさ」
「そうなんですか」

菅生さんはメールを送信したのか、携帯を仕舞う。
その時にブレンドが運ばれてきた。
俺はブラックで、菅生さんはミルクと砂糖で、
それを静かに啜る。

カップを置いて、短くなったタバコを消すと、
切なそうに菅生さんが見つめて、静かに言った。
「マイト君、すまなかった」

何がすまないかは聞かなくても判っている。
ここで許さないと言ったら、どうなるだろう。
逆切れされて注射器か、やばい薬物を仕込まれるか。

いや、そんなことよりも。

俺は今、どういう気持ちだろう。

菅生さんの素直すぎる謝罪に、心がちょっと揺らいだ。
だけど、菅生さんがした出来事については、
許すとか許さないとか、そういう次元の問題じゃない。

「それはもう終わったことですから」
終わったことは変えられない。
だから、もうお互いに忘れよう。
これこそが俺なりの答えだった。

すると、驚いたような顔をされた。
それから泣きそうな目へとなっていく。
顔を隠すためかブレンドを再び啜ってから、
菅生さんはにこりと微笑んだ。
「‥ありがとう‥マイト君」

次話へ 前話へ

お気に召しましたら一票お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
BL小説星が刻んだ未来さえ | TB:× | CM : 1
作者の独り言 13HOME星が刻んだ未来さえ 60

copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi