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  [ その手はひとつじゃない 3 ]
2011-03-08(Tue) 06:00:12
「兄貴どういう意味?」
郁央は、喉を鳴らしてから俺に訊ねた。
そんなはずはない、と疑うような目をしている。
俺はウソなんか言っていない。
事実は事実だ。
そんな目を崩すようなトドメを弟に刺した。

「郁央が思ってる通りだよ」
「だって、兄貴はこれまで普通に、
 女の子とだけしか付き合ってないじゃん」
「それはお前もだろ?」

俺達はそれなりの恋愛をしてきた。
もちろん童貞でもない。
けれど、惹かれるものを感じたからこそ、
なぜか同性が恋愛の対象になった。
ただ、それだけだ。

郁央が、じっと満さんを見ている。
睨むというよりは疑っている、そんな表情だった。

「今言ったことは本当ですか?」
「はい、そうです」

満さんは揺るがず迷わず、そう返答した。
嬉しくてにやけそうになるのを堪えていると、
郁央はとんでもない要求をしてきた。

「だったら証拠とかある?それを俺に見せてよ」
「証拠?どうして?」
「俺のためにそういうこと言ってるだけかもしれない」

なるほど、言われてみればその通りだ。
しかし困った、証拠といわれるものなんて皆無だ。

助けを求めて満さんを見ると、笑いながらこう言った。
「交際をしている証拠になればいいなら、
 今ここでキスしても構いませんが?」

予想外の発言に、弟だけではなく俺もびっくりした。
「え?キス?」
「ちょっと、俺はイヤですよ満さんっ」
「兄貴、マジでキスとかしてんの?」
「交際していれば当然しますよ。ねえ、舞斗君?」
「いやでも弟が見てる前で満さんとキ‥っ」

キスなんかできないし、したくありません、
と言いたかったのに軽くキスされてしまった。
でもとだってが、キスのキーワードだった。

突然の出来事に絶句し、俺は驚いて立ち上がった。
キスするのは嫌いじゃないしむしろ好きではあるけど、
だからって弟の前でするなんて、ありえない。
穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。

俺は案の定、即行でマジに逆切れした。

「いくらなんでもやりすぎですっ」
「キスくらいしかありませんよ、交際の証拠」
「いきなりするのはフェアじゃありませんっ」
「セックスを見せるよりはマシかと思いまして」

爽やかな顔で、吹っ飛びそうなことを言う満さんに、
俺は更にかあっと真っ赤になった。
「確かにセックスに比べたらマシですよ。
 でも、それとこれとは違うでしょうっ」
「あ、でもって言いましたね」

そう言われ、俺は手で自分の口を塞ぐ。
危ない危ない、またキスされるところだった。

「ちょっと落ち着けってば、兄貴」
郁央が、ここで俺を制した。
兄のキスシーンに照れてはいるものの、
表情はかなり真剣そのものだ。

俺は冷静に戻り、イスへ静かに座る。
冷静でいられず逆切れしたことに反省して、
弟と満さんに頭を下げた。

「‥ごめん悪かった。満さんにも謝ります」
「こちらこそすみませんでした。
 舞斗君があんなに動揺するとは予想外だったもので」
「いや、俺のほうが悪かったです。
 交際している証拠なんて、あるはずないのに」

3人で謝罪し、一気に沈む空気。
そのムードを打ち破るように、郁央がいきなり起立した。

「俺、お詫びにごはん作る。あとケーキも」
「ケーキ?そんなの作れたっけ?」
「前にレアチーズケーキ作った。自分でもいい出来だった。
 俺にそれでお祝いさせて」
「お祝いって何の?」
「何のってそんなの決まってんじゃん。
 満さんと兄貴のお祝いだよ」

切り替えの早い弟に、ぽかんとする俺と満さん。
そんな俺達へにこりと微笑むと、弟はイスから立ち、
腕まくりをしながらキッチンへ向かった。

俺は慌てて弟に声をかけた。
「信じてくれたのか?」

弟は止まってこちらを振り返り、大きく頷く。
俺と満さんのことを受け入れてもらえたのか、
さっきとは打って変わって逞しい顔をしていた。
だけど、なぜかこっちが納得いかなくて、更に問う。

「あんなんで?どうして?びっくりしただろ?」
「そりゃあびっくりしたよ。
 兄貴達のキスシーンは生々しかったし。
 でも、兄貴は、俺にウソなんて言わないだろ。
 満さんとのことは俺がきっかけな気もするけどさ、
 それで2人幸せなら、それでいいかなって」

俺なんかよりも大人になっていた弟が、そこにいた。

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ほのぼのと言うよりはコメディな感じですね(笑)

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