BLUE BIND

BL小説ブログ。危険を感じた方はお逃げ下さい。
  [ 青い空を見上げて3rd 9 ]
2011-04-09(Sat) 07:35:12
笹崎侑津弥


「こんにちは。青柳です」
人としての柔らかさを感じさせる、温かい声。
そのテノールの声域にこっちが気持ちよくなるような、
心がふわりと浮くような、おかしな感じがした。
青柳、とこの人物は名乗っている。
名前は聞いたことあるのに人物が判らない。
声も覚えがあるのに思い出せない。

俺が黙っていると付け足された。
「笹崎君?それともスウ君と呼べばいいかな?」

そう呼ばれてようやく判った。
俺のことを撮った、写真家の青柳四葉だ。
顔を思い出しながら俺は話を始める。

「‥こんにちは。それはどっちでもいいです」
「それならスウ君って呼ばせてもらうよ。
 ところで、今ちょっと話していい?」

携帯の裏側へ耳をつけて頷くジョー。
俺も頷き、青柳さんへ返事をした。

「‥平気です」
「雑誌の掲載、もうスウ君は知ってるかな?」
「‥はい。クラスメイトに教えてもらいました」
「そう。おめでとうって言わせてもらうよ」
「‥ありがとうございます」

そうは言いつつ、複雑な心境。
大きく写真が載って、嬉しいような嬉しくないような、
俺なんかがどうしてって思ってしまう。
イケメンじゃないのにな、俺。

「今週のどこかで時間ないかな?
 僕にちょっとだけどお祝いをさせてほしいんだ」
お祝いって何だろう。

困ってジョーを見ると、保留ボタンを指差された。
なるほど、保留にしてジョーと相談することにしよう。
「‥あの、ちょっと保留にしていいですか?」
「うん、いいよ」

言われてボタンを押すと、俺ではなくジョーが息をついた。
空になった弁当を包みながら、マキが苦笑いする。
ウツミじゃなくてジョーが一息ついちまってどうしたんだよ、
と言いたげな顔をしながら、ジュースを飲んでいた。

「‥どうしよう、ジョー」
「どうしようって、ウツミはどうしたいんだ?
 怪しそうなら行かなきゃいいし、
 怪しくないんだったら行ってみればいいし」

ジョーの言う怪しさは、少なくとも感じない。
ところで怪しいっていうのは、どういう意味だろう。
殴られたり襲われたり、カツアゲされたり、
そういうのやりそうな人なのかってことなのかな。
青柳さんと会ったのは一度だけど、
優しそうな人だったから、たぶん大丈夫だろう。

「‥怪しくないと思う」
「それなら行ってみれば?」
俺はウツミのこと信じてるから好きにしろよ、
という目のジョーに頷いた。
ごくと喉を鳴らして、保留を解除する。

「‥はい。だったら明日にでも」
「ありがとう。ここで待ち合わせしよう」
指定してきた日時は、夜7時、
青柳さんと出会ったところの駅近くだった。
じゃあね言い電話が切られる。

疲れ切ったのかさっきのジョーのように息を吐いて、
野菜ジュースを一気飲みした。
風呂上がりの一杯みたいに、すごく美味かった。

弁当を食べながら詳細を語る。
ジョーとマキは頷きながら聞いてくれた。

「まあ、ウツミがいいならいいんじゃん?」
「俺もそう思った。だからウツミを止めなかった。
 ウツミだって自分でそれくらい判断できるだろうし」
「にしても青柳四葉ときたか。すごいな、ウツミ」
マキに肩を叩かれ、何がすごいのかを訊ねる。

世界で有名な、フォトグラファーらしい。
顔出しはなぜか厳禁にしていて、
素顔を知っている人間は少ないみたいだけど、
個展のプロデュースを依頼されたり、
世界中のアーティストのPVも制作しているみたいだ。
俺はそういうのに疎くて、へえと生返事した。

「へえ、じゃないっての」
マキが言って笑うと、ジョーも笑った。
俺もつられて笑った。

次話へ 前話へ

お気に召しましたら一票お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
BL小説青い空を見上げて3rd | TB:× | CM : 0
青い空を見上げて3ed 8HOME青い空を見上げて3rd 10(R18)

COMMENT

COMMENT POST

:
:
:
:



 
 管理者にだけ表示を許可する


copyright © 2024 BLUE BIND. All Rights Reserved.
  
Item + Template by odaikomachi