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  [ 青い空を見上げて3rd 55 ]
2011-07-11(Mon) 06:10:51
阿久津城


終電のなくなった時間になった。
走り回ったせいか体が汗だらけで、しかも汗臭かった。
それでも、シャワーを浴びる気になれない。
ウツミから連絡がくるかもしれない。
ひょっこりと帰ってくるかもしれない。
それを期待している自分がいた。
だから、俺は何もする気が起きなかった。

リビングのテーブルで、ビールを飲みながら、
ウツミの携帯にまた電話をかける。
やはり、電源が入っていない案内が流れるだけ。

アルコールのせいもあり、いらいらが募ってきて、
携帯を壁に叩きつけようと右手を振り上げた。

いつものスマートな俺はどこにいったんだ。

携帯を壊しても意味は無い。

こういう時にこそ、もっと冷静になれ。

深呼吸し、手を震わせながら下に降ろす。
そして、祈るような思いで、もう一度電話をすると、
祈りが通じたのか、コールが鳴った。

「‥はい」
間違いなくウツミの声色だ。

「ウツミ、無事か?」
「‥うん」

さっきまでの怒りはどこへやら。
怒るでもなくどこにいるのか訊ねるでもなく、
俺はウツミの無事を確かめた。
どうやら、ウツミは大丈夫らしい。

「そうか。よかった」
耳にしっかりと携帯を当てたままで、
俺は思わずテーブルに突っ伏した。

「そこからここに歩いて帰ってこられるか?」
「‥ムリ」
「それなら、タクシーで迎えに行かせて」
「‥いや、それはちょっと‥あ‥」
「もしもし?」

いきなり声が変わった。
訊ねなくても誰なのかくらい判る。

「ウツミがお邪魔してます伊吹さん」
「あれ?スウの恋人ってジョー?」

とっくに気付いておいて白々しいですよ、
と言いそうになったけど止めておく。
俺達のことなんて伊吹さんは興味ないだろうし。
興味があったって他言しないだろう。

ウツミは鈍感だから、びびってるかもしれない。
まあいい、俺をこんなに焦らせてくれた罰だ。
ちょっとどころか、たくさんびびりやがれっつの。

「ええ、そうです。
 これからウツミを迎えに行っていいですか?」
「俺はいいけどスウはダメだって言ってる」

言い合いしてウツミは家を出た。
すぐに仲直りなんて都合いいし、さすがにムリか。
もうちょっと時間が必要かもしれない。

「それなら、始発の電車で、
 迎えにいっていいか聞いてもらえますか」
「いいってさ。ここで頷いてる」
「ありがとうございます。
 ウツミを迎えにいくので、住所を教えて下さい。
 言いたくないなら駅でも構いませんから」
「隠すようなとこに住んでないっての。住所は‥」

伊吹さんの自宅は、一等地にそびえる高層マンション。
そのマンションに住むということが、
芸能人や金持ちの、ステータスになっているらしい。

ウツミは、やはりスタジオ付近をうろついていた。
伊吹さんとどこかで鉢合わせして、
マンションへ行ったとしか思えない。
三波の言葉と照合し、答えはそれしか浮かばなかった。

「ウツミのことお願いします」
「どこにも行かせないから任せとけって」
その言葉を最後に通話が終了した。

俺は思わずテーブルに頭を乗せる。
ぐったりとして、体がずんと重くなるのが伝わった。
それでも、気持ちはすっげ満足していた。

よかった、ウツミと話ができて。

言ってやりたいことが多くあったけど、
第一声が、ウツミの無事を確認するものだった。
ウツミはきっと怒られると思っていたはずだ。
だから、無事なのか質問されて、
すっげびっくりしたかもしれない。
我ながらおかしくなってふっと笑った。

さてと、こうしちゃいられない。

シャワーを浴びてとっとと寝ることにしよう。

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