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  [ 青い空を見上げて3rd 59 ]
2011-07-17(Sun) 05:30:39
阿久津城


ウツミと共に電車に乗った。
車両は肌寒く、しかもまだ誰も乗っていない。
考えてみれば始発にも人がいなかったな。
遠くの空が、うっすら明るくなってきた。
そろそろ日が昇りそうだ。
俺とウツミは黙って座ったまま、それを見ていた。

「‥ジョー、ごめん」
突然、ウツミが小さく呟いた。

「何が?」
「‥伊吹さんにキスされて抵抗できなかったこと」
「俺もしたから謝るなよ。これでドローだ」

そう言うと、ウツミは俺の手を握ってきた。
一瞬、どきっとした。

「‥これから話すこと聞いてほしい」
ウツミは俺の手を握り締めたまま、
ゆっくりと喋り始めた。

学費を稼ぎ、大学に行き、
目指しているのは税理士だということ。

例え働くようになっても俺の傍にいたいこと。
でも、今のようにはいられないと思い、
そのためにはどうればいいか、
ウツミなりにあれこれ考えていたということ。

その話を聞いて、ガキなのは俺のほうだと悟った。
俺もそろそろ決めないといけない頃だろう。

「ウツミの思いは判った。判らず屋は、こっちだった」
「‥俺もちゃんと言えなかった。ごめん」
「例えこれから何があろうとも、どうなろうとも、
 俺はウツミと別れないからな」
白い手をぎゅっと握り返す。

ウツミを見つめると、ウツミも見つめてきて。

誰もここにいないことを確かめてから、
俺達は、そっとキスをした。

キスは間違いなく、ウツミの味がした。

「ウツミがモデル続けるなら考えがあるんだけど」
「‥何?」
「俺さ、高校を卒業してから調理の専門にいくつもりだった」
「‥調理?シェフとかパティシエとか?」
「ああ。チャイナダイニングを開きたかったんだ」

しかも、ウツミとの出会いがなければ、
アリゾナに行って開くつもりだった。
恐らく父さんは、こっちには帰ってこない。
そうすると、母さんももちろん戻りはしない。
だったら俺がアリゾナに行けばいい、そう思った。

だけど、今は違う。

「‥すごい。ジョー頑張れよ」
「でも、それはもう辞めることにした」
「‥え?どうして?」
「美容の専門に進学して、スタイリストになる」

ウツミは、ぽかんとなった。
台詞の意味が、あんまり判ってないらしい。

「この意味判るか?」
ぽかんとしたまま、ウツミは首を横に振った。
まあ、こんな間接的表現じゃあ、
ウツミじゃなくても意味判るはずがないか。

俺は笑い、判るように言った。
「スタイリストになって、スウにつくことにした」

ようやく理解できたのか、急にウツミは慌てた。
「‥そ‥そんなのダメだ。ちゃんと夢を追わなきゃ」
「俺の夢は、ウツミといることだから」
「‥でも、だからってそんなのダメだって」

ウツミは首を振りながら、俺のシャツを掴んできた。
きっと、俺がこういう考えに至ったことを、
自分のせいだって苦悩しているんだろう。
それは違うと言うように、ウツミの頭を撫でた。

「いいんだ。もう決めた。スタイリストとしてスウにつく。
 で、いつかは俺の美容院を持つつもりだ。
 俺の稼ぎはスウにかかるんだから手を抜くなよ?
 それから俺が店を持ったらさ、
 ちょっと会計手伝ってくれないか。どうも簿記が苦手でさ」
溜め息をつきながらわざと頭を掻く。

そうだ、これでいいんだ。
こうすれば、ウツミと繋がっていられる。
仕事でもプライベートでも一緒にいられるんだ。

駅に着き、人が乗ってきてウツミの手を離す。
すると、ウツミが俺のシャツをこっそり摘まんできた。

「‥本当に、それでいいの?」
「そうするって俺が決めたんだって」
「‥ありがとう、ジョー」
「どういたしまして」

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青い空1~3までに、
ジョーは結構中華料理作ってます。
そんな地味な裏設定(笑)


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