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  [ 僕達の学園祭 5 ]
2011-08-24(Wed) 08:20:33
阿久津城


学祭中の体育館は、たくさんの部の発表が行われていた。
演劇部、軽音部、漫才部、吹奏楽部と、
ここぞとばかりに盛り上がりをみせていて、
意外にもこれが人気だったりする。
中でも特に、服飾部のファッションショーが注目されていた。
「でね、モデルの予定の男子が捻挫しちゃったの。
 仕立てた衣装は、モデルの人のサイズで作ってあって、
 代わりになるのは誰でもいいってわけじゃないの」
真剣な井出の眼差しが、ウツミに注がれる。

よくよく話を聞いたら、服飾部の女子は井手の幼馴染で、
捻挫したモデルは同じクラスの男子だという。
どうやら、捻挫したモデル役とウツミの体型が、
そっくりじゃないかという結論になったみたいだ。

まあ、バイトという名目でも本物のモデルではあるし、
ウツミは細身だから、何でも着られる。
井出と装飾部の女子は、いい判断をした。

「お願い、ウッチ。
 ファッションショーに出てもらえないかな?」
拝み倒すようにウツミへ手を合わせる、井出。

井出は、他人のことでもいつも全力だ。
だからこそ、みんなから好かれているし、
みんなが井出を信頼している。
俺もそうだしウツミもそう思っているだろう。

だけど、ウツミの顔が迷っていた。
自分なんかでそんなモデルの大役をこなせるのかな、
とでも考えている目をしている。

ふと目が合って、笑いながら頷いてみせた。
やってみろよ、という意を込めて。
すると、ウツミが強い目をして頷き返してきた。

「‥いいよ、協力する」
「ありがとう。そう言ってくれるって信じてた。
 あんまり時間がないから、急いで行こう。
 阿久津君、ウッチのこと少し借りるからね」
「どうぞどうぞ」

俺達は服飾部の部室へ、ダッシュした。
そこは、服飾部の部員と、そのパートナーのモデルとで、
賑やかにごった返している。
ウツミの登場によって一瞬、そこは静まり返った。

「なあ、あれスウか?」
「スウだよね」
「どうしてここにスウがいんの?」

あちこちから、ぼそぼそと話す声が聞こえてくる。
俺達はそれらを無視して、井手の先導で、
幼馴染が待っている場所へ行った。
井手の幼馴染が、目をみるみる大きくさせた。

「驚いてる暇ないから。ウッチ連れてきたから早く」
幼馴染は井出に感謝し、泣きそうな顔でこくりと頷いた。

ウツミに白いシャツと、黒いパンツが渡される。
どちらも体のラインが出るくらい、ぴっちりしていた。
それを着て更に、首輪と手枷を装着し、
間をチェーンで結ばれていく。
テーマは、ハードパンクってやつらしい。

ウツミは一通り着替えると、イスに座った。
「‥ジョー、顔と頭を頼む」

真剣な表示で、じっと俺を見つめる。
井手の幼馴染から、メイク道具とムースを拝借し、
俺の手で、ウツミをスウへと変えていった。

目の周りを黒く塗って、色の濃いグロスを唇に塗る。
前髪は全開に、後髪はハードムースで固定した。

「できたぞ」
「‥ありがとう」

鏡を見て、ウツミは満足そうに微笑んだ。
すると、井手の幼馴染のモデルの相方が登場した。

「あれ、阿久津?」
それは波田野だった。
足がかなり痛むのか、顔を歪めながら引き摺っている。

「もしかして、これやる予定だったのって波田野?」
「そうなんだよ。借りがあったから断れなくてさ。
 ところで、この度は俺のせいで、
 いきなりこんなことになってすみませんでした」

波田野が丁寧に、ウツミに頭を下げた。
もしかして、メイクと髪型と服装のせいで、
ウツミだって判ってないんじゃないか。

「‥ナツ、俺だよ俺」
ウツミは俺と目を合わせてから、ぷっと吹き出した。

「え?あれ?ウツミか?」
「‥うん」
「うわ、びっくりした。誰かと思った。
 メイクもばっちりだな。衣装にすごく似合ってる」
「‥これ、ジョーがやってくれた」
「へえ、阿久津にそんな才能があったのか」
「はいはい、お喋りは終わり。そろそろ本番みたいよ」

井出が、手を叩く。
服飾部の顧問が、本番を告げに教室に訪れていた。
モデルだけ集まるように言われ、ウツミは静かに立つ。

その時の顔は、すでに笹崎侑津弥ではなく、
モデルのスウの顔になっていた。

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