BLUE BIND

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  [ 青い空を見上げて 2 ]
2010-04-27(Tue) 15:30:05
阿久津城


渡り廊下を歩く、嬉しそうな新入生が見えてきた。
入学式を終えた新入生が、体育館から校舎へ、
ぞろぞろと移動を開始したようだ。
屋上を出て1階へ降り、下駄箱で新しい上履きを履いて、
その群れに紛れた。
和賀高は、普通科が1・2組、商業科が3・4組、
体育科が5・6組、という感じに分かれている。
その各クラスの扉に、名簿を兼ねた席順が貼られていた。

やっぱり、俺は、廊下側の1番前だ。
うちの学校の名前順だから、俺はいつも廊下側の前になる。
あ、で始まる苗字の宿命と言えよう。

ふと、教室を見回す。
教室の後方に、さっき屋上にいた、あいつがいた。
席に座っていて頬杖をつき外を眺めている。
まさか同じクラスとは思いもせず、ちょっと驚いた。

あいつは、あれからすぐに引き返していった。
青い空を見ながら、何を考え泣いたんだろう。
もちろん俺に知るよしもないが、何だか妙に気になる。

妙に気になりながらイスを引き席についた。
それにつられるように、俺の後の男子も、
隣の席の女子も、ガタンと音を立てながら席に座る。

後の男は背が低い。
これからの成長に合わせてか制服が大きめのサイズで、
ブレザーがだぼっとしている。
妙にでかい黒メガネが、今にもずり落ちてきそうだ。

それがおかしくて、ぷぷっと笑いそうになった時、
隣の席の女に、いきなり話しかけられた。

「阿久津君、でいいんだよね?」
「あ、うん。そうだよ。えーと‥えーと‥」

しまった、隣席の女子の名前、ノーチェックだった。
俺としたことがうっかりミスを犯してしまった。

「私、井出風音。これからよろしくね」
俺のミスも知らず、井出はにっこり微笑んでくれた。
さらさらのストレートボブに、黒髪がよく似合っている。
話し方も、何だかサバサバしていて感じがいい。

「こちらこそよろしく」
こちらも負けずに、爽やかに笑い返してみた。

「ねえ、阿久津君の名前、どう読むの?しろ?じょう?」
「ジョーだよ。阿久津城」
「そうなんだ。格好いい名前だね」
井出は、片えくぼを見せながら、親のネーミングセンスを褒めた。

すると、扉がガラリと開いて、
このクラスの担任がズカズカやってきた。
あちこちで、慌てて席につく音がする。

全員がきちんと着席したのを確認したのか、
担任はうむうむと一人頷いていた。
「よしよし。みんな席についたな。
 このクラスを受け持つことになった、結城貴和だ」

キレイに掃除されている黒板へ、大きく名前を書いた、
担任の結城は、濃いブラウンのスーツを着ていた。
髪は入学式用に短く、童顔だが34歳で妻子持ちだ。
これがなかなか女子に人気があったりするけど、
和賀高の教師共は、おっさんばかりだというオチがある。
 
「俺はマーケティングを教えている。1年間、宜しく頼むな。
 あれ、阿久津、お前また3組か」
チョークのついた手をぱんぱんと払い、教室を見渡す結城は、
俺を見つけてにやりと頬を緩ませた。

とても嫌な感じがして、ひくっと顔が引きつった。
 
「阿久津は半年間、アメリカに留学した経緯があるから、
 本来なら2年になるところを今年また1年をやることになった。
 判らないことがあったらこいつに聞くといいぞ」

結城の言葉で、俺がダブリだと判ってしまい、
ざわざわと騒ぎ出すクラスメイト。
物珍しそうな視線が、ちくちくと突き刺さってきた。

こういうことはあまり言ってほしくはない。
自然に伝わるならともかく担任が言っちまうときたもんだ。
結城のそういう天然なところに、溜め息が出た。

「そうだったんだ。何だかすごく大人に見えたんだよね」
「あはは。そう言ってもらえると救われるよ」
井出は、にこりと目を綻ばせながら俺に言った。
物珍しさではない眼差なら、もちろん悪い気はしない。

「よし、それじゃあ高校の最初の出席をとるからな。
 呼ばれたら立って、どこの中学の出身なのか、
 ちゃんと言いながら顔をみんなに見せるように」
結城は、出席簿を開いてペンを手にした。

「まずは、1番男子の阿久津城」
「はい。南三中出身です」

その場で席を立って、自己紹介。
で、恐る恐る、ゆっくり、教室を見回す。
痛すぎる視線を浴びたのは、言うまでも無い。

「次、1番女子の井出風音」
「はい。北五中です。宜しくお願いします」
「次、2番男子の荒本康太」
「は‥はい!東三中出身です!」

後の席の男、荒本は、緊張しているのかやけに大声だった。
改めて見ると、やっぱり全体的にミニサイズで、
メガネが童顔に拍車をかけている。
高校生だけどランドセル持たせたら小学生でもいけそうだ。

それから一通り自己紹介と出席のチェックがされて、
ついに、屋上にいたあいつの順番になった。

「次、男子12番、うむむ、
 ささざきゆつや‥って読むので合ってるか?」
名前の漢字が、どうもかなり判りづらいらしい。
結城が眉間に皺を寄せて首を傾げると、
そいつは前を見もせず立ち上がって、呼ばれた名前を直した。

「‥笹崎侑津弥‥ささざきうつみ、です」

暗い声で、寄ってくるなオーラを漂わせている。
ウツミという、可愛い名前とは裏腹に、
前髪が邪魔で見えない顔が根暗な印象だ。
少し俯き、どこを見ているのかさえ判らない。

「‥西八中」
そう言うと、笹崎はゆっくり着席した。

西八中はここからかなりの距離がある。
ここに通うには、電車でたぶん3時間くらい必要なはずだ。

何だってそんな遠いところから来てるんだろう。
和賀高レベルの高校だったら、あちこちにあるのに、
わざわざここを選ぶなんて変わっている。
電車で3時間、俺ならそんなの耐えられない。

と思いながら笹崎を見ていたら、はたっと目が合った。

冷たい目。

だけど、茶のキレイな瞳。

笹崎は、すぐに目を逸らして、頬杖をついて外に視線をやった。
俺はおかしなことに笹崎が気になってしまった。

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