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  [ 青い空を見上げて 3 ]
2010-04-28(Wed) 15:05:28
阿久津城


出席チェックが終わり、同時にチャイムが鳴った。
結城も教室からいなくなりささやかな休憩に突入だ。
丸めた背中を伸ばすと、女子が群をなして俺のとこにきた。
ざっと見ると、手前に4人と後方に3人。
可愛いことは可愛んだけど、幼さがまだ残っている。

「阿久津君ってアメリカのどこに留学していたの?」
リーダー的な存在の女子が訊ねてきた。

染めているロングヘアーを指でいじっていて、
いかにも勝気そうな顔付きをしている。
しかし残念ながら興味がなく、俺はまだ名前を覚えていない。
名前を思い出そうと頭を捻りながら、問いに答えた。

「アリゾナ州だけど」
「へーえ!すっごーい!」
7人は、スカートを揺らして騒いでいる。

アリゾナは、アメリカの田舎にあたる部分になるから、
何がすっごーいのか判らなかった。
そりゃあ大都市もあるけど、ほとんど荒野と山岳だらけの、
西部劇地帯だ。

「アリゾナって何があるの?」
またもや、リーダー的な女子が聞いてきた。

おいおい、ちょっと待ってくれよ。
何があるのかも知らなくて、すっごーいって騒いでいたのかよ。
ってツッコミを入れようとしたが、
俺のキャラが崩れるから止めておいた。

「グランドキャニオンに、メテオクレーターに、あとは‥」
「きゃー!すっごーい!ホントすごすぎるー!」
きーんと耳に響くような、黄色い悲鳴。

ただの山や地面の窪みに、何できゃーって悲鳴が出るのだろう。
グランドキャニオンは剥き出された岩の山だらけなだけだし、
メテオクレーターは単なる窪みというだけだ。
俺はハイテンションについていけないどころか引いてしまった。

隙を狙い、その場からこっそり離れて、
窓際に立って教室を眺める。
どうやら、俺のところに女子が群がってきたのが、
クラスの男は気に入らないらしく、
ほとんどがこちらに冷ややかな目をむけていた。

まあ、うん、いいけどさ。
つーか睨むなら、群がってくるのを待つんじゃなくて、
自分で動いて女子に話せっての。

なんて悪態つきつつ、ふと横を見ると、そこに笹崎がいた。
そよそよと吹く風に髪をなびかせて、
さっきの冷たさはどこへやらといった感じの、
優しくて穏やかな瞳で、じっと空を見ている。

ちょっと話しかけてみた。
「よう」
「‥何か用?」
俺を見るなり急に冷たくなった、笹崎の視線。

鬱陶しそうな口調は、透き通るような高い声だった。
しかも、こうやって近くで見てみると、
さっきの女子なんかより、よっぽどきれいな顔立ちをしている。

ここで、とっておきの百万ドルの笑顔をしてみせた。
「笹崎の名前、かっちょいいな」
「‥あっそ」

しかし効果はなく、つまらなそうに空に視線を戻されてしまった。
一応褒めたつもりだったけどもしや地雷踏んだか。

それなら話題を変更しよう。
「さっきから空を見てるけど空が好きなのか?」
「‥去年の学祭で、あんたの絵を見てから空が好きになった」

笹崎は、空の眩しさに目を細めると、
ポケットに突っ込んでいた手を顔にかざして、
俺を見ながら話を続けた。

「‥あんた美術部だよな。
 空の絵、きれいだったの覚えてる‥あっ‥」
続きを話すと、余計なこと言ってしまったという表情をして、
慌てて目線を逸らした。

俺はこれでも美術部に入っている。
去年11月、留学中にやってやった学祭用キャンバスを、
アリゾナから学校に発送していたのだ。
やってやった、というのは、顧問や部活の仲間が、
展示品稼ぎに頼むからなにか書いてくれと国際電話がきて、
仕方なくやったという意味。

タイトルは、空。
聞こえだけが良い、青一色の風景画。

ぎりぎりの着手だったから、急いで少々雑に塗ったけど、
絶妙な青の加減が、なかなか気に入っている。
ちなみに、キャンバスは顧問がコンクールに出品してしまい、
今は手元に無い。

「笹崎、あれを見たのか。んでもって俺の名前を覚えてたのか。
 あはは、嬉しいな。ありがとうな」
胸がくすぐったくなった感じがした。
それに、冷たそうな笹崎の意外な一面が見えたのが、
これまた嬉しかった。

「笹崎は、どこの部に入るんだ?どっか決めてる?」
「‥まだどこにも決めてないし入らないかもしれない」
「だったら美術部入らないか?」
笑いかけながら言うと、笹崎は一瞬、困った顔をした。

「‥考えておく。それと、俺にあまり近寄らない方がいい」
笹崎が言いながら去ろうとした瞬間、
ぶわっと強い風が教室内に入り込んできた。

「やだあ!スカートがめくれちゃう!」
「男子!こっち見るな!」
「ちょっと誰か窓を閉めてよ!もうやだ!」

強風に驚きつつスカートを押さつける女子。
でろんと鼻の下を伸ばした、だらしない表情になった男子。

いや、そんな光景よりも。

俺は見た。

風に揺れる笹崎の前髪に目を奪われ、俺は思わず目を丸くした。
右の額の、眉毛から生際にかけ、でかい傷があった。
すうっと縦にひかれた傷が、一瞬で見えて、一瞬で隠れる。
驚いている俺をちらりと見ながら、廊下へ静かに消えた笹崎。

意味ありげな台詞と、額のでかい傷跡を気にしながら、
溜め息をついて空を見ると、そこは変わらず青かった。

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