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キレイ事に見えても構いません。
必要としている人がいるのは確かです。
実質的な行動はなくとも、
こういうのがあるということを、
知ってもらえるだけでも嬉しいです。
お読み頂きありがとうございました。
[ 蒼空と流星の狭間 28 ]
2011-10-20(Thu) 21:45:12
笹崎侑津弥
ふわり、とコーヒーの香りがした。
目を開けて体を起こす。
俺の隣に、ジョーが寝ていて、
向こうのベッドには舞斗さんだけが寝ていた。
あっちのベッドサイドに薬の袋が立てかけてあった。
隣にデキャンタの水とコップもある。
何となくそれを気にしながら、ベッドから足を下ろす。
立って歩くと、体がだるい感じがした。
寝ていただけなのに何だろう、これ。
体のそんな違和感を感じつつ、隣のリビングへ行くと、
満さんが新聞を広げていた。
テーブルには淹れたてのコーヒーが入ったカップがある。
と、満さんがこっちを見て、にこりと笑った。
「侑津弥君、おはようございます」
「‥おはようございます」
「よかったら私とコーヒー飲みませんか?」
コーヒーカップの隣にはサイフォンが置いてあり、
その中にはたっぷりのコーヒーが入っていた。
それにしても、これをわざわざ持ってきたのかな。
アルコールランプまであるんだけど。
「ホテルからこれを借りてコーヒーを淹れたんですよ」
これ、と言いながら満さんがサイフォンを指した。
疑問に思っていたことが表情に出ていたらしい。
的確な返答に、俺はにこりと笑った。
「コーヒーは嫌いですか?」
「‥いえ、大丈夫です。コーヒー頂きます」
「はい、どうぞ」
カップに注いでもらい、それを差し出された。
ぺこりと会釈してから一口啜る。
微量な酸味と、まろやかやな味わいがした。
「‥美味しい」
「ありがとうございます。
実は豆は、私がここまで持ってきたんです」
「‥それくらい気に入ってるんですね」
「ええ。ホテルで借りたカップはブランド物ですし、
これで美味しくなかったら詐欺ですよ」
満さんはカップのブランドを言って、
どれくらい価値のあるものかを説明してくれた。
知らないことでも流したりはしない。
知らないからこそ聞いていて楽しいなって思う。
頷きながら聞いていると満さんも嬉しそうだった。
「ところで、侑津弥君」
「‥はい?」
「さっきから体を気にしてますけど、どうしましたか?」
「‥あ、はい、ちょっとだるくて」
それに違和感もある、とはここでは口にしなかった。
すると、満さんが困ったように笑った。
「実は私も、そうなんですよ。
ベッドが変わると、寝つきが悪くなったり、
だるくなったりするんです」
「‥俺はそんなに繊細じゃないと思いますけど」
「繊細かどうかの関係ではありません。
身体の問題で、こればかりはどうにもなりませんよ」
言われてみてそうかもしれないと思った。
ジョーと住み始めてから、
外泊したのはこのまえの撮影だけだ。
その時も確かに、体がだるくなったような気がする。
満さんはコーヒーを啜って、こう続けた。
「私は出張が多く、ホテルに泊まることが多いので、
時々ですけど薬飲んでますよ」
ベッドサイドの薬の袋は満さんのだったのか。
それにしても、そんなもの飲まないと眠れないなんて、
社会人ってのは大変そうだ。
「睡眠薬というのは御幣がありました。
体の緊張を解し、寝つきをよくする薬です。
副作用でたまに夢遊病のようになります」
「‥そうなんですか」
満さんは話すのが好きなんだろう。
俺はそんなのよく判らないけど頷いておいた。
体がだるいのは慣れないベッドのせいか。
ジョーはどうだろう、やっぱりだるくなるかな。
いや、ジョーなら、どこでも寝られる気がする。
なんて思いながら笑うと、
ジョーが起きてリビングに入ってきた。
「ふあ‥おはようございます」
シャツと短パンを直しながら、あくびをした。
だらしないし、見てるこっちが恥ずかしくなる。
ちょっとは満さんみたいに、
仕草をスマートにして大人っぽくなれっての。
そのジョーは頭を掻きながら、隣のイスに座った。
「おはようございます、阿久津君」
「‥おはよう」
「あれ?ウツミ何か怒ってる?」
「‥別に」
「阿久津君、コーヒー飲みませんか?」
「いいんですか?じゃあ、ごちそうになります。
あ、このカップ、うちにもあるやつだ」
「‥え?そうだっけ?」
「あるある。父さんがコレクションしてるから知ってる。
これすっげ高いんだよな。ウツミ割るなよ?」
ジョーがにやにやしながら、俺を煽る。
そんな煽りに乗ってたまるか。
「‥割らないし落とさないし」
「ははは。ところで、これってホテルの?
それとも、満さんがここまで持ってきたんですか?」
「ホテルのを借りてます」
「ですよね。でも、うん、いいカップのコーヒーは、
特別ってか格別ですね」
喋っていると騒がしくて起きたのか、
舞斗さんもリビングへ登場した。
みんなが揃ったところで、ホテルに朝食を用意してもらう。
ホテルブレットや、高そうなハムやチーズを食べながら、
これからどうするか、という話をした。
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