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  [ 見知らぬとこで七色が 3 ]
2011-10-29(Sat) 09:40:00
「っと、セーフ」
力の抜けた体が支えられる。
それは、カップルのどちらでもなく、
どこからか現れた手だった。
サングラスをずらした男が笑いかけてくる。
意識が朦朧とし、顔がぼんやりして見えなかった。
判るのはサングラスをした男ということと、
虹がモチーフのキャップを被っているということだけ。

「この人どうしたの?」
男は顔を上げ、俺ではなくカップルに聞いた。

その時、ぽつりと雨が降ってきた。
雫が落ちて顔を濡らす。
体が辛いというのに雨が降ってくるなんて。
タイミングの悪さにも程があるだろう。

「具合が悪そうだったんで僕達は声をかけたんです」
「でも、大丈夫だからの一転張りで、
 そしたら、ふらっとして倒れそうになって‥」
「そうだったんだ。あとは俺が引き受けるよ」

男は澄んだ声で言った。
引き受けるとかなんとかって俺は物じゃないっつーの、
って言いたいのに言えなかった。

雨音が少しずつだけど確実に強くなってきた。
雨に晒されたら俺は死ぬしかない。
生きることさえもどうでもよく思えてきてしまい、
俺はつい自嘲気味に笑った。

「え?いいんですか?」
「大丈夫。ちゃんと対応するから」
「あの、おじが往診専門の開業医なので、
 よかったら連絡先教えていいですか?」
「それは助かる。メアドの交換しようか」

そいつは俺を抱き止めたまま、
カップルの男の子とメアドを教え合った。
ぱちん、と耳元で携帯を畳んだ音がした。

ふん、今時ガラパゴス携帯かよ。
パスワードが判らないから使えないけど、
俺なんかでさえスマートフォン持ってるっての。
それとも流行している2台持ちってやつか。

「ありがとう。あとで連絡するから」
「はい」
「よかったね、康太」
「そうだね、風音」

ちくしょう、何もかもが悔しい。
せめて男の顔を見て拝んでやる。

男は俺と目が合い、爽やかに笑った。
しかも、男は、雨が当たらないように俺を覆っていた。
そのスマートさにむかついて、俺は拳を握る。

「大丈夫?」
「当たり‥前‥だ‥」

ここから先の記憶が無くなった。

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